始動

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大儺儀(だいなのぎ)前夜~    全てを失った日から、どれだけの月日が流れたのか。  取り戻したい。  この道程で何度願っただろう。  だが、願ったところで意味は無い。叶えてくれる神はいない。  願いを叶えるには自身で行動する他ない。  それでも、失った物は二度と戻らない。  ああ、この世界のなんと残酷な事だろう。  善と悪。  まだ物心つく前、家にあった絵本を読んだ。  主人公が民を脅かす鬼を退治する、そんな話。 善は、必ず悪に勝利する。  敵役である鬼は、いつも悪として処断される。  善悪など一体誰が裁定するのか。  悪だと断じられた存在は、善によって滅ぼされる。   悪だとみなされた方はただ黙って滅びを受け入れるしかないのか。  その裁定に正義はあるのか。    認めない。  この身に起きた現実を認めない。  この身に起きた不条理を認めない。  善悪の裁定を下した者を認めない。  全てを奪った世界を決して認めはしない。  待ち望んだ。  現状を変える運命の転換点。    それがこの世の原理だと言うならば。  この身は望んで鬼となろう。                                序の幕~相剋(そうこく)大儺儀(だいなのぎ)。 それは歳末、晦日(みそか)の夜に執り行われる、とある儀式。 古くは奈良時代から連綿と受け継がれてきた鬼祓い。 十二月晦日。 年が移ろうこの時期は、陰陽のバランスが崩れ、人ならざる「(あやかし)」が市井に湧き出でる。 それら歳末に現れ出でる化生を「癘鬼(れいき)」と呼び、古の民は恐れた。 人に害を成す癘鬼(れいき)を退散させるため古来より、力持つ術者が集い、 この妖を封じてきた。 安倍晴明(あべのせいめい)。 かの者が隆盛させ、そして今日(こんにち)も絶える事無く続く、血族らによる救世の儀。 五人の陰陽師による追儺(ついな)。 ――此度、史上最も(いびつ)となる大儺儀(だいなのぎ)が始まろうとしていた――。
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