始動

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『――陰陽師が使う術、即ち生命力を用いた『(しゅ)』は大陸から渡来した五行思想における五つに分類できる。即ち(もく)()()(ごん)(すい)だ。この事は諸君らも百も承知の事と思う。本日の講義では、それら五行の相生(そうしょう)相剋(そうこく)について話をしたいと考えているが、その前に一つ手本となる私の(しゅ)を君たちに見せておくとしよう』  室内が一気にざわつく。西洞院家当主がじきじきに自らの術を見せるというのは滅多にない事だ。彼らの気分も昂ぶりを見せているのだろう。 『と言っても、私の得意とするのは攻撃の(しゅ)でなくてね。誰か相手役が欲しい所だ。誰でも良い、この壇上まで来て私に攻撃してくれる生徒はいないかな? もちろん手加減は無用だよ』  さらにざわつきが増すが、一向に名乗り出る者はいない。近頃の生徒は、率先して行動する者が大分減った、と有隆は常々感じている。こういった場で、率先して目立つ事は誇らしい事であって恥ずべき事ではない。自己主張の控えめな生徒達に有隆は嘆息する。 『おやおや、困ったな。折角の機会を不意にするのは勿体ないぞ? 先達の技術を見て盗むのも必要だと……』 「オレにやらせろ」  有隆の言葉を遮るように、講義室に大きく声が響いた。室内にいた全生徒の視線が声の主に集まる。視線の先に立っていたのは、黒髪に赤いメッシュを入れた高校生程度の目つきの悪い少年。彼を知らない人から見たら、町にたむろする不良少年と言った雰囲気だが、彼もまたこの場の誰もが知る有名人だった。 「おい、あれって土御門の」「マジかよ、なんでこんな生徒用の講義受けに来てんだ?」「目つき怖え……」  教室のあちこちで生徒達の話し声が広がる。  土御門白臣(つちみかどあきおみ)。  西洞院と双璧を成す陰陽師の名家、土御門家の当主候補。実力は家中でも最強の呼び声が高い、天才陰陽師として陰陽寮内で知れ渡っていた。白臣(あきおみ)は壇上まで歩を進め、有隆の前で立ち止まる。 「不足か? 有隆」  その言葉には目上の人間に対する敬意の様なものは少しも感じられなかった。有隆は白臣(あきおみ)の横柄な態度に僅かなイラつきを覚えるも、その場で顔には出さない。西洞院家の当主として外聞は綺麗に取り繕わなければならないからだ。
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