第6章.狂気

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「……次は本番。今度は本気で掻っ切るから。  それこそ骨が見えるくらいにね。  助けないと、私はとんでもない事になるわよ?」  もう一度。血にまみれたカッターを持ち空に掲げる。 ゆっくり、ゆっくりと高度を下げる。目的地は同じ左腕。  少女が飛び出してきた。  カッターの刃が左腕に当たる瞬間、 少女は私の右手に飛びつく。 そのままカッターを奪い取ると、 尻もちをついた私の上に馬乗りになった。 「っ……助けた、って事は。好意って事でいいのよね?」  少女は何も答えない。 ただ一つの頷きさえも私に返してはくれない。 でもその目には大粒の涙が溜まり、 唇はわなわなと震えている。 「……ま、いいわ。少なくとも私を  傷つけるのが目的じゃないのはわかったから」 「もう気にしない事にする。  好きなだけそばに居ればいいわ」 「ほら、もう帰るからカッター返して」  少女は言う事を聞かなかった。 きらきらと涙で輝く瞳を、まっすぐ私に向けながら。 ゆっくりと、チキチキチキ、 私から取り上げたカッターの刃を出して。 私の上に乗ったまま、右腕に刃を押し付けて。  そして、そのまま、一気に左手を薙ぎ払う。 「ちょっと!?」  彼女の右腕にも線が引かれ、血が溢れて滴り落ちる。 彼女は痛みに顔をしかめながらも、私の左手に指を絡めた。 ぼたり、ぼたりと血が垂れ落ちて、 私の血と混ざりあう。  ああ、わからない。この子がよくわからない。 何一つわからない事だらけだけど、 それでも一つわかった事がある。 「貴女。狂ってるのね」  少女はにこりと微笑むと、 血液にまみれた右腕を私の左腕にこすり付けて。 お互いの血を丹念に混ぜ合わせた。
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