最終章.彼女の名前を、私は知らない。

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最終章.彼女の名前を、私は知らない。

 結論として、少女は今も謎のままだ。 名前も、声も、身元も、行動さえも。 何もかもが謎なまま、私の事を監視している。  少し生まれた違いと言えば、 二人きりの時はそばに寄ってくるようになった事。 私から逃げなくなった事だけだ。  だから私は今もまだ、膨れ上がる好奇心を 満足させる事ができず。 ただただ彼女の事が気になって、 脳裏を彼女で埋め尽くしている。  気になる人。でも何も知らない人。 なのに誰よりも長く一緒に居る人。 そんな不思議な関係が、もう何年も続いている。 いまやこうして、同棲するにまで至っているのに。  多分この謎は一生解けないのだろう。 私はこうして生彼女に支配されたまま、 彼女と一緒に死ぬのだろう。  自ら導いた結論にため息をついたその瞬間。 私は思わず目を見開いた。 「……もしかして、貴女の目的は」  真実にたどり着いた気がする。 何も語らぬ少女の目的、それは――  情報を隠し続ける事で、私を縛り付ける事ではないか?  確信に近いひらめき。告げても彼女は何も語らず。 ただゆっくり目細め、僅かに口を緩めて笑った。  ああ、気になる。本当に気になる人。 誰よりも私を焦がし、誰よりも私を震えさせる人。  彼女の名前を、私は知らない。
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