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さて、今日も頑張ったな、とビルを出た。珍しく定時上がりだ。
ビルの乱立するこの通りを、ぐるっと見渡せば、まだまだ佳境の職場ばかりだ。それでも駅への流れに人は多く、俺たちは選ばれた定時帰り組だと、わけのわからないテンションだった。
「先輩!」
声の主に、ちょっと引け目を感じつつ、振り返ると彼が右手をぶんぶん振って、追いかけてきていた。奴も定時上がりらしい。
傍まで走ってくると、はぁはぁと息を荒くしていた。膝に手をついて、呼吸を整える。
「わざわざ走ってきて、どうした」
「だって、電車もバスも一緒だし、ご一緒させてもらおうかと思って」
そうだった。こいつは近所だった。バス停1つ分しか違わない。
走ったために少しだけ蒸気した頬で、にっこり笑う。
不覚にも、きゅんとした自分がいて、絶望しそうだった。
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