0人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は小銭を彼のスーツのポケットに押し込んで、缶コーヒーを取り上げる。
そのまま、プルタブを引き、口をつけた。まだ熱い。せっかく煙ですっきりした頭がまたもわっとしそうだ。
それでも俺の中の見栄センサーは強く働いて、ぐっと飲み干す。空になった缶をボックスへすとんと落とすと、彼はじっと俺を見ていた。
胸のあたりに両手でカフェオレを抱いて。
「先輩、かっこいい。彼女さん、幸せ者ですね」
「馬鹿言うな。彼女なんかいねぇよ」
彼女はいない。事実だ。もう2年くらい一人だ。
すると、彼は心底驚いた風を見せた。ぐっと顔を近づけてくる。
「ええーっ!?先輩、すごいかっこいいのに!僕、ずっと憧れてるんですから!」
「おまえ、気持ち悪いことを言うなよ」
とは言いながら、ちょっと耳が熱くなったのは秘密だ。
「じゃあ、僕、皆に先輩のことプレゼンしときますね!いい男が余ってるよって!」
「余ってるっていうのは、素直に喜べんが、まあ、わかった」
彼はありがとうございました!と言って、ぺこりと頭を下げた後、部署に戻っていった。
最初のコメントを投稿しよう!