1人が本棚に入れています
本棚に追加
ある晴れた日。
青年は切符を買って列車に乗り、田舎に向かった。
広大な田園風景の中、青年はあてもなく歩いた。
澄みきった青空の下、陽射しの心地よさを感じる。
しばらくすると、青年はひとりの村人に出会った。
「ここにはなにもないよ」
村人はそう言った。
下を見ると、アスファルトの上を蟻が散策していた。
青年は笑顔で歩を進める。
晴れの日が続いた三日間、青年はその土地を満喫した。
その土地での記憶は誰かに語って聴かせられるほどのものではなかったが、青年にとって終生の思い出となった。
それから少しして、青年はある雨の日に、再びその土地を訪れた。
雨を避けて通りかかった屋根の下に入ると、いつかの村人に再会する。
村人は言った。
「雨が上がったら、綺麗な虹が出るよ」
雨宿りをする間、青年は村人とその土地の作物を口に運びながら、他愛ない話をした。
気付くと、雨があがっていた。
雲の切れ間から、光が地上に射し込む。
少しだけ強い風が吹いて、天気雨が降る。
山間には、綺麗な虹が出ていた。
青年も村人も、笑顔でそれを眺めていた。
完
最初のコメントを投稿しよう!