操天術は魔法である

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操天術は魔法である

 そよそよと心地よく流れる風に、短く切り揃えた金髪を靡かせながら小高い丘に立つ少年が一人。いかにも魔法使いといった風体の、十五、六歳の少年である。その名を、ロベルトという。 「……いい天気だ。操天魔法日和だな。ここなら見晴らしもいいし……もう少し俺に魔力があれば、一回くらいなら使えるのにな」  天に向けていた空と同じ色の瞳を伏せて僅かに肩をすくめ、彼は丘から見下ろせる中世風の町並みに背を向けた。生まれてこの方、ずっと住んできた町だ。  背の低い草の茂る小道をのんびりと下って行きながら、ロベルトは自らの所属するパーティのメンバーたちの顔を思い浮かべた。  一人はお節介焼きの幼馴染み、もう一人は下級貴族の親友という、身内だけのパーティだ。多少付き合いが面倒になるときもあるが、人見知りなロベルトにとっては気心の知れた良き友人たちだ。  人差し指で眼鏡のブリッジを調整した直後、歩いていた小道が途切れる。丘の麓に着いたのだ。  靴越しに足に馴染んだ土の感触を楽しみつつ、ロベルトはしばしの感傷に浸った。  今日、この日、午前六時を知らせる鐘が鳴ったら町を出ていく。  三人のうちで一番誕生日の遅い者が十六歳になったら冒険者として世界を旅すると、もう十年近く前から決めていた。そして一週間前、幼馴染みが十六歳の誕生日を迎えたのだ。  町の人にも話を通して、冒険者としての登録も済ませた。残念ながらパーティ登録は田舎すぎてできないらしいので、次の街でやることになる。  やり残したことは何もない。あとはただ、出ていくだけだ。 「ロベルト、そろそろ鐘が鳴るよ」  そう声をかけたのは、親友のルヴォルス・コーダーだ。  綺麗に撫で付けられた藍色の髪がそよそよと風に靡いている。けれど金がかった瞳を取り巻く黒い靄が、風に流されることはない。 「ああ、分かってる。リリンは?」 「門のところだよ」  もう一人のメンバーのことを尋ねると、簡潔な返事が返ってくる。 「そうか。……なあ、ルヴォルス。お前は本当に後悔しないか? ここには家もあるんだし……」 「僕は二人と一緒に旅がしたくて剣を習ったんだもの。今さらやっぱり止める、なんてイヤだよ。それに僕は、弟も探さなきゃいけないし」 「……うん、それならいいんだ。じゃあ行こうか。あんまり待たせるとリリンが怒る」 「だね」  二人は町の正門へと向かって歩き出した。
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