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脳が、己に許す限りの速度で回転を重ねる。あれだこれだと考え、問題点を上げ、何とか補えないかと思考する。
そこに焦りは、ない。思考速度が限界を超え始めているのか、周りの全てがひどくゆっくりと動いているように見える。
たった一つの可能性を信じ、かつての経験を総動員してひたすら考え続けるロベルトの脳内を、ふと霞めるものがあった。
しかし閃きとは総じて、一瞬のうちに彼方へと消えてしまうもの。何かが見えた。なのに消えた。
唇を噛み締め、必死に思考する。希望は確かに、自分の脳裏を駆けたはずなのだ。
(思い出せ! 今、何が過った!? 今のは絶対、最高の案だったはずなんだ!)
片手を杖から離し、胸の辺りを掴む。と、その時。握り締めた手に、触れるものが一つ。
「……っ!」
思わず息を飲んだ。ついさっき枠外へ消えたはずの最善策が舞い戻ってくる。それは確かに、勝利のために必要なうちの、最高の一手。ついに見つけた。
興奮に総毛立つ。にやりと、知らぬ間に口角が上がる。
《どうしたの? どうしたのよ? 何もしないの?》
フィーマが言う。だがそれには答えず、ロベルトは顔を上げて、立ちはだかる炎天使を見据えた。フィーマはその表情を見て不信感を覚える。
この笑みはいったい何だ、と。
「――集う水精、その姿を高め、隊列となれ。荒ぶる速度のまま、喰らい尽くせ。我は契約者。魔の使い主なる者。遠くより刻を超えた者」
自信に満ちたロベルトの声が朗々と響く。炎渦巻く地下三階に、大量の水が溢れ始めた。精霊が己の体を水へと転じたのだ。
どこにこんなに多くの水があったのかと思うほどに巨大な水の塊が、ロベルトとフィーマの間に構成されていく。
《……その程度では、この炎鎚は崩れない》
失望したような声音で、炎天使は一人の魔法使いを睥睨した。かつての戦友であったとしても、精霊にはそんなことは関係ないのだ。
精霊は人の信仰心から生まれた存在。ゆえに精霊の主人には本来誰でもなれる。そして精霊自身も、ある程度気に入れば、人種も職種も問わない。気に入った相手ならば山賊だろうと海賊だろうと味方する。
そんな、ある意味自分勝手とも言える暴力的な存在に、だが。
「水精よ、愚炎を喰らえ。
バレッド・バズーカ!!」
力強い魔力により結ばれた、必勝の一撃が襲いかかった。
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