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魔法使いの使うメガネと言えば、高すぎる魔力量により他人の魔力が見えてしまう者がかけていることが多い。単純に目が悪いだけの者もいるが、そちらの方は少数だ。
ロベルトは魔法使いとして別格の魔力量を誇る。力が奪われてなお上級の大魔法を続けて二回も使えるような者は、おそらく他にはいまい。
そして彼のかけているメガネも例によって魔力視抑制のためのものだ。しかもあれは力を奪われる前から使っていた。
魔力視を封じられるということは、少なからずメガネに魔力を防御、あるいは弾く能力があるということ。ロベルトのメガネは、他の魔法使いからしても段違いに防御力が高いのである。
それを自身の行使した魔法の中に入れ、フィーマの魔法への対抗力を著しく高めたのだ。もしロベルトが普通の魔法使いだったならば絶対にできない芸当だった。
ちなみに眼鏡を投入してもロベルトの魔法の威力が落ちなかったのは、眼鏡にロベルトの魔力が染み込んでおり、慣れていたからだ。そうでないと、魔法使い本人が魔法を行使できなくなってしまう。
《奇策……いえ、イデアとは、そういう存在だったわね》
自身の頭に引っかかったそれを手に取るフィーマ。が、メガネはボロリと形を崩してしまった。崩壊は止まらず、どんどん原型はなくなっていく。
さすがに、いくら魔法防御に特化したメガネでも全てを受けきるのは無理だったようだ。
「フィーマ」
《ええ、分かってるわ。……クエル》
完全に蚊帳の外だったクエルが肩を揺らし、慌てて返事をする。
《負けてしまったから、帰るわね。こんなに濡れていては、もう炎が使えないもの》
今度はクエルが反応するより早く、フィーマはさっさと姿を消してしまった。あとには疲弊したロベルトと無傷のリリン、クエルが残された。
さて、これからどうしようかとロベルトは疲れた頭で考える。もうこれ以上魔法は使えない。二回使ってしまった。だがクエルに相対させるのにリリン一人では心許ない。
フィーマがやられたことで諦めてくれればいいが、とクエルに目を移した。
「……っ!?」
瞬間、ロベルトは絶句する。クエル本人も気づいていないらしいが、彼の顔が……いやおそらく全身が、変化し始めていた。
あちこちにひびが入り、肌がさっきのメガネのように崩れている。その下から現れているのは、血色の悪い肌。
分かっていたことだが、これを見て、改めてロベルトは知ることになった。長年仲間達を――相棒を苦しめ続けていた男は、クエルその人であったのだ、と。
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