救出作戦、始動

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 皮膚がボロボロと崩れている真っ最中である当の本人クエルは、しかしそんなことは気にならない様子であった。濁った目を怒りで燃え立たせ、ぶつぶつと呪詛の言葉を吐いている。  ロベルトの中で第一印象であった優しい人が崩れ落ち、第二印象の敵すらも消え去り、第三印象のイカレ野郎が持ち上がり始めた頃、クエルは唐突に叫んだ。 「あの詐欺師め!!」  ぐりんっと顔をこちらに向けて物凄い形相で睨みつけてくる。が、正直ロベルトからしてみれば「何が?」といった感じだ。  詐欺師も何も、別に誰も騙してはいないはずだが、何かしてしまったのだろうか。  声を大にして呪いの言葉を吐き続けるイカレ野郎を一応警戒しながらも観察する。もう大丈夫だと思ったのか、リリンもそばまで来てクエルの方を嫌悪に満ちた目で眺めていた。 「なァにが彼女を使えば操天術師に勝てるだ、負けやがったじゃないかあの底辺精霊! 白髪頭めぶっ殺してやる!!」  その言葉がイカレ野郎の口から吐き出された瞬間、ロベルトの中で何となくだが話が繋がった。 「あー、あいつか……」  はぁぁ……、と深い深いため息をつく。どこか疲れたような表情をしているのはリリンの錯覚ではない。 「あいつって? ライくん? それともエメルダさん?」 「そいつもイデアのメンバーではあるけど二人じゃない。何というかまあ……面倒なやつ、かな」  リリンはよく分からない顔をしながらも、とりあえずイデアだから仕方ないのかと無理やり納得する。この辺り、彼女もだいぶ存在が意味不明なイデア達に毒されているらしい。  いまだに詐欺師め、許さんなどと呟いている、すっかり姿の変わってしまったクエルに歩み寄り、ロベルトはその頭に杖を思い切り振り下ろした。  鈍い音とともに体が崩れ落ちる。同時に、クエルが出てきた奥の方からわあっと派手な歓声が聞こえた。次いで、こちらに駆け寄ってくる大勢の足音。 「ロベルトー!」  わらわらっと出てきたのは、十数人の男女。その誰もが、ロベルトにとっては見知った顔だ。イデアにこそなれなかったものの、オールドマスター一門の中でも高い実力を有していた者達。  懐かしい顔ぶれに、ロベルトの顔は自然に緩む。それを見たリリンも、戦いは終わったのだとようやく安心することができた。
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