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とりあえずは一旦ギルドから出て、四人は宿に戻ってきた。最優先事項は完了したので、これからについて話し合おうということになったのだ。
もちろん春まではここで過ごすので、来春以降のことだが。少し気が早いようではあるが、余裕を持って計画した方がいいだろうということで話が決まった。
「ただいまー」
と四人それぞれが異口同音に口にする。すっかり我が家気分である。
部屋で円形になってに座ったところで、ロベルトはライに知られないように、ひっそりと二人に目配せした。二人も即座に目配せで返す。
ライは冒険者になったことが嬉しくて、そんな三人に気づいた様子はない。
すると、唐突に三人が立ち上がった。驚くライをよそに、ロベルトは備え付けのクローゼットに駆け寄り、リリンはそれを隠すようにライの前に移動し、ルヴォルスはベッドの下から何かを取り出している。
「え……え? 何?」
「ライ」
ロベルトが優しい声音で呼ぶ。頭をはてなで埋め尽くしながらそちらを見るライ。その隣ではルヴォルスはそっと横に退き、リリンとともに何かを持っている。
「これ。俺達から、プレゼント」
そう言って差し出されたのは、新しい服。
ライが今着ている服はボロボロになっていて、服というより布切れを引っかけているような状態だった。
それを憂いた三人は、本人に内緒で服を買っていたのだ。せっかく解放されたのにあの服のままだというのは、クエル(服の購入を決めた際には判明していなかったが)に縛られているようで個人的に腹が立つという理由ももちろんある。
顔を輝かせているライに、今度はルヴォルスとリリンが歩み寄った。
「これは、エメルダさんから」
その贈り物を脳が認識した瞬間、ライは目を見開いた。
「嘘、何で……まだ……あったの?」
渡されたもの、それは――
「ボクの、ボクの剣……!」
剣を抱き抱え、 はらはらと涙を流す。それは間違いなく、イデア時代にライが使っていた剣だった。とっくの昔に処分されたものと思っていたのに、錆び一つなく綺麗な状態で自らの腕の中にある。
あの日以来、門下生達はあらゆる武器を没収されてしまった。それらがどうなったのか、牢の者達は誰も知らなかった。
だからもう存在しないのだろうと、諦めていたのに。
そんな姿を見たロベルトは、密かに思う。やはり相棒には、あの剣が一番よく似合っている。
そうして新しい服に着替え、懐かしい剣を装備したライは、もうすっかり囚われていたとは見えないような立派な身なりになった。
少し目元を腫らせながらも嬉しそうにしている相棒の姿を見て、ロベルトはふとイデアの皆で衣服の交換をしたことを思い出した。
職業ごとに男女の別なく、くじ引きで引いた相手の服に着替えるという捻りも何もない単純な遊びだ。
当然ながらそれなりに体格差もあったが、それがそれでまた面白かった。
いい年した大人達がこんなくだらないことで子どものように大笑いをしたのはいい思い出だ。
この四人で服を交換してみたらどうなるだろうと想像してみて、少し笑った。なかなか悪くない。
「さて、ライの着替えも終わったし……少し話すか」
そう切り出したロベルトに、三人は真面目な顔をして頷いた。
「ライ、俺達はルヴォルスの呪いを解くために解呪師の街に行こうと思ってるんだ」
「解呪師の街? へぇ、そんなのあるんだ。遠いの?」
「結構遠いわ。あ、その前に春まではここで過ごして、来春にはランク昇格試験を受けるつもりでいるんだけど……大丈夫?」
リリンは荷物の中から手元の地図を見ながら言った。自分達の故郷と、この街と、そして次の目的地に赤丸が入れてある。
それを覗きこんだライが問う。
「ここの一番離れてる丸がその街ってやつ?」
「そうだよ。解呪に特化した研究をしてるんだって。教会の本部もここにあるの」
リリンの言う教会、というのは回復魔法の使い手の集団のことだ。普通に宗教活動もしているが、現在のメインは戦地になった場所に赴き、怪我をした民間人などの治療に当たっている。
彼らの中でも高位のメンバーになると、かなり大がかりな魔法陣を使って記憶消去の魔法をかけることもできるという。
もっとも、教会の者がこの魔法を使ったところは誰も見たことがないため今は都市伝説扱いをされている。
(そういえば、教会の歴史は古く、数百年前まで遡ると聞いたことがあるな。……もしかすると)
歴史が得意なルヴォルスは、一つの可能性に思い至った。
それは、もしかしたらイデアに繋がるかもしれない事実。
期待に少し頬を紅潮させ、ルヴォルスは口を開いた。
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