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気まずい雰囲気が満ちた室内で、ロベルトが不意に立ち上がった。
「ライ、昨日の話覚えてるか?」
「覚えてるよ。行こっか」
「……また食堂?」
ルヴォルスが胡乱げな視線を向ける。何かを食べているわけでもなさそうなのに、夕食後に二日連続で食堂へ行くのは怪しい。
悪巧みをしているのでないのは分かっているが、勘繰ってしまうのだ。
それは理解しているのか、ロベルトが口を開いた。
「悪いな。俺達も色々と、折り合いをつけなきゃいけない問題ってのがあるから」
言い残して、二人は部屋を出ていった。階段を下る音が聞こえてくる。その音を聞きながら、ルヴォルスは扉をじっと見つめる。
オールドマスター一門は、歴史からその名を消された。彼らの言う『あの日』というのも今の時代には少しも伝わっていない。
だから……そんな一門が本当に存在していたかどうかすら、定かではないのだ。
リリンは信じているが、ルヴォルスはまだ心のどこかで疑ってしまっていた。
しかしこんな大がかりな嘘はありえない。よってルヴォルスは、ロベルトやライが何らかの組織に所属していたことは信じている。
ただし、そこまでだ。『オールドマスター一門』のことはあまり信じていない。
もっと言えば不老不死の話も信じきれない。ロベルトが転生したのは……納得できなくもない。前例はある。だがライやエメルダは別だ。
まず見た目が若い。特にライは子どもっぽく、とてもではないが数百年を生きてきたとは思えないのだ。
「……僕は……どうして、こんなに」
彼らを信じられないのだろう。声にならずに消えた言葉を胸中に隠し、ルヴォルスは俯いた。
最近はいつもこうだ。前は、信じられた。ロベルトが一門の存在を明かした時、エメルダと会った時、預言者の残した預言を調べていた時、ライと会った時。
全て、信じていた。一門はかつて存在し、彼らはそこにいて、何らかの理由で壊滅した。そしてその存在を抹消された。
不安になるのだ、彼らを見ていると。どこか危なっかしい。ふわふわしていて、脆く儚い。
何かを忘れているような気がする。でも何も忘れていない気もする。
「ローレンス……僕は、何をしているんだろうね……」
そっと、弟の名前を呼んだ。
探し求める弟は、今、ここにはいないのだ。
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