雨が上がって、幕も上がる

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雨が上がって、幕も上がる

 重要案件が増えたのが判明してから約半月後。リリンの修行は終わりを告げ……そして、雨も上がった。まだ雨雲そのものは少しばかり残っているが、おおむね晴れている。 「気力充実! 準備万端!」  ぐっと伸びをしながら、リリンが元気に言った。ようやく修行を終えて精霊回復の力を手に入れられたため嬉しそうだ。  精霊回復の効果は絶大で、ルヴォルスが剣先で指を切って試してみたのだが、一秒とかからず傷痕もなく治った。  その力でリリンは、ライの過去の傷痕を全て治療した。前に見た時から酷い傷に心を痛めていたので、素直に応じてくれて助かった。  体調その他準備等が万全となった四人は、久々に街へと繰り出した。冒険者として活動するという目的と、作戦に使う場所の下見という目的がある。  雨上がりの街はたくさんの人で溢れており、皆楽しそうに談笑していた。子どもたちも水溜まりをパシャパシャと蹴りあげている。  賑わう街並みを見ていると、ハインリヒが来ることなど忘れてしまいそうだ。 「あ、ねぇねぇあれ見て!」  リリンが右斜め前を指差す。そちらに視線を移すと大道芸人が芸をしていた。一見すると何の変哲もないありふれた芸だが、よく見ると普通ではあり得ない動きをしている。  多くの人々は「よくいる芸人だ」くらいにしか思っていないらしく、ほとんど誰も立ち止まらない。だがたまに、おや? と思ったのか大道芸人を見る人もいた。それらの人は主に冒険者だ。 「……へぇ、魔法か。なかなか細かいな。筋がいいし、鍛えればそれなりに強くなるぞ」 「あんなにすごいのに、何で気付かないんだろうね?」 「俺達が特殊なんだ。普通、あんなに魔力を細くしてたら気づかない」  不思議そうなリリンにロベルトが答えた。  大道芸人は魔法の流れを糸のように細く保っている。元から普通の人には不可視の魔力をこんなに細くしてしまえば、魔法使いでも大抵は気づかない。  芸人の技術が巧みなため、道具が多少不自然な動きをしても芸の一環で片付けられてしまうのだ。  一連の芸を終えた大道芸人は、周囲で見ていたわずかな観客達に優雅に礼をした。リリンが笑顔で拍手する。  すると大道芸人がこちらを向き、リリンに目を止めた。彼はにっこり笑ってもう一度礼をし、そうしてその場から離れていった。
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