雨が上がって、幕も上がる

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 何十色も色がちりばめられているのにどこも混ざらず個々の美しさを保ったままの、色に形を与えたような弓矢。  それは小さく、見た目だけではとてもイデアという集団の中で通用するとは思えなかった。  これはもしかして大きくなるのかと勘ぐる二人の耳に、声が割り込んだ。 「へぇ、また彩度が増したんじゃないか?」 「軽量化も進んでないかな。すごいね」 「あら分かる? そうなのよ。実は領主と話が付いて、私の拘束も全て外されたの。当分はこのままギルドマスターを続けるつもりだけれど……何かあったら駆けつけられるようにはなったわ」  エメルダがぎゅっと手を握り込み、開く。すると弓矢は一回り大きくなっていた。 「よく見ていてね」  そう言うと、彼女は左手も持ち上げる。パンッ! と乾いた音を立てて両手が打ち合わされた。両手はぴったりと合わさっており、弓矢は押し潰されたかのように見える。  なめらかな手が、手のひらをするすると滑っていく。指先、掌、掌底も通りすぎた。  左手が完全に引かれると―― 「わぁっ、綺麗……! 弓矢が手の中に入っちゃった!」  手のひらの中に、あの弓矢が溶けていた。形も色もそのままだ。ただ物体であったはずのものが、元々描かれていた絵であるかのように、美しく収まっている。  額縁に飾られた絵のように、溶けている。 「こうすることでいつでも出し入れできるわ」  再び手を握ると、今度は絵から物体に。もう一度握ると、物体から絵に。まるで手品のように現れたり消えたりする魔弓に、四人は感嘆する。 「すごいすごい! いいなぁ、私もできるようになりたいなぁ」  羨望の眼差しを注ぐリリンの目は掌中に溶けた弓矢に釘付けだ。  弓を扱う者としては、手の開閉だけで呼び出したり戻したりできるというのは大きなアドバンテージとなるのだ。  弓は物にもよるが大抵はそれなりに大きく、持ち運ぶにもスペースをとる。剣や杖のようにいつも片手に持っておくには正直邪魔だ。  そのデメリットを帳消しにできるこの手品のような技術は、是非ともほしい。 「これはオリジン・スキルに準じているものだから人に伝授することは難しいわね……。そういう能力が開花するのを待つしかないわ」  ごめんね、と謝るエメルダにリリンは首を横に振って、リリンはオリジン・スキルの開花を新たな目標に刻むのだった。
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