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翌日、気持ちのよい晴天は今日も続いた。引き続いての大通りの喧騒も心地よい。窓を開ければ冬間近とは思えぬカラリとした日光が注いでいる。
「おっはよー!」
朝から人一倍元気なのはリリンだ。精霊回復の力を得てから目覚めがいいらしく、今日も日が昇る前から起き出していた。
反対に、まだベッドにくるまっているのはロベルト。朝は苦手ではないのだが、いくら外が暖かろうと時期的にはほとんど冬だ。その事実だけで起きるのが億劫なのである。
もぞもぞと頭まで布団を被り直して、早くも二度寝の体勢に入っていた。
「ロベルト、起きて! 朝だよ!」
「……ん」
「寝ないでよ、今寝たら起きられないでしょ?」
「……ん」
「二度寝はダメだってば!」
「……ん」
意識的に発しているのかさえ疑うほど喋ろうとしない。一言どころか一音の反応だ。いくら面倒臭がりのロベルトでも、ここまで起きないのは久しぶりだ。
とりあえずロベルトは後回しにして、他の二人は起きているだろうかとそちらを見る。
「あれ、ルヴォルスも起きてないの?」
これまた珍しいこともあったものだ。精霊が一番綺麗に見えるのが朝方だからと早起きしていることが多いのに、と不思議に思う。
だらしないなぁと視線をベッドから外したところで、ライとフィーマの姿がないことに気付いた。またどこかに行っているのだろうか。
どちらも一人でふらふらすることが結構多い。並みの相手では太刀打ちできないほど強いので身の心配はしないでも大丈夫なはずだが、意外と抜けているところもあるのでそこは気になる。現在記憶に問題があるライは尚更だ。
早く戻ってきてほしいと若干心配しつつ、まずはルヴォルスを起こすことにした。その間ロベルトを寝かせておけば少しはすんなり起きてくれるはずだ。
「ルヴォルス、起きて~」
ベッドの側に寄って声をかける。すると「んん……」と小さく呻くような声がして、やがてゆるりとルヴォルスが目を覚ました。
「…………おはよう、リリン」
「おはよう! 珍しいね、朝遅いなんて」
「あー……色々考えてて遅くなった」
ぴょこんとついている寝癖を手で直しながら、寝起き特有の少しかすれた声で言う。大きく伸びをするとすっかり目が冴えたようで、いつも通りににっこりと笑顔を見せた。
「ロベルトは……ああ、まだ寝てるんだ」
軽く身だしなみを整えたルヴォルスはこんもりと盛り上がったままのベッドを見る。布団は穏やかそうに上下していた。
まだその気配はないものの、彼らにとって危険な存在となる予定のハインリヒは刻一刻とこちらに迫ってきているのに、まるでそんな事実はないというような静けさだ。
「……何だか、久しぶりだね。こういう朝は」
ルヴォルスが呟く。そのままふと見渡した部屋は朝日が射し込み、優しくも陰影濃く照らし出されている。いつもの日常の一ページであるはずが、なぜか脳裏に鮮烈な印象を残した。
旅が始まる前、そして始まって間もない頃には、まさかこんなことになるとは思ってもいなかった。
自分達にはそれぞれ異なる事情があって、目的があって、幾年も待ち続けて旅に出たのだ。ただその目的を達成するために。
それが今や仲間も増え、何百年も前に消えたはずの存在と関わり合っている。信じられないことだが、それが現実なのだ。
故郷からまだ街一つ移動しただけとは思えぬほどの濃密な日々。振り返ってみれば驚愕の連続だった。
時が止まったような静寂の中で、ルヴォルスとリリンはじっと黙していた。
金色に浮き上がる木造の部屋に、起きているのは二人だけ。新たに加わった仲間はおらず、幼い頃からの友人はいまだに夢の中にいる。
いや、こここそが夢なのか。自分は本当に起きているのかと妙なことを考え出したルヴォルスは、不意に袖口を軽く引き寄せられた。
何も考えずに視線を移すと、思っていたよりもずっと近くにリリンの顔があった。
花の蕾のような、それでいてすでに咲き誇っているような、大人と子どものちょうど真ん中にいる少女は、ふわりと笑む。
その表情があんまりにも綺麗で、世界すら遠のいていくような気がした。
ルヴォルスは精霊よりも美しく微笑むリリンの頬に手を添え、そっと顔を近づける。
「――――」
光の中で、二つの影が柔らかく重なりあった。
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