雨が上がって、幕も上がる

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 それから約二時間後。ロベルトも起こされ、ライが(窓から)帰ってきて、フィーマも(虚空から)戻ってきて、いよいよ出発になった。  今日はルヴォルスが契約したという設定でフィーマを正式に街に引き入れる日だ。一応本当に契約はするので、ルヴォルスは緊張気味だった。  だがそれよりも苦い顔をしていたのが…… 「ロベルト、機嫌悪いね。砂でも食べた?」 「……ある意味」  げっそりした様子で肩をすくめる。なぜ機嫌が悪いのかというと、それは非常に簡単。二時間前、すでにしっかり起きていたからである。  あの時は眠かったので起きようとしなかったが、意識はちゃんと覚醒していた。よってルヴォルスとリリンが何をしたか分かったのだ。  穏やかに寝ていたのは思いっきり狸寝入り。そりゃ二人が好き合っているのはロベルトも知るところであり、そういうことをするのをダメだと言っているのではない。  ただ、やるならどこか人のいないところでやれと、そう言いたいのだ。部屋ですると空気が甘くなって仕方がない。 「いや、うん……俺は気にしない……本当に気にしてないんだ。ほら、東洋のどっかの国の言葉にあるだろ? 仲良いっていいよな、みたいな意味の」 「仲良きことは美しきかな?」 「そうそれ。まあちょっと使いどころおかしい気もするけど、仲悪いより全然いいし……」 「あ、今日のロベルト壊れてる」  ダメだこりゃ、とライがくすくす笑った。とりあえず何があったのか大体察したのだ。 やけに嬉しそうなリリンと幸せそうなルヴォルスを見れば、空気が死ぬほど甘かったのは容易に想像できる。  現場にいなくてよかった、とライは心底思った。  ちなみに「気にしない」と言っているがロベルトはその類いをかなり気にするタイプで、逆にライは目の前で何をされてもあまり気にならないタイプだ。 「まあそれなら『仲良きことは美しきかな』ってのは少し変だけどねー。どっちかというと『愛し合うことは美しきかな』って感じ」 「俺は気にしない……気にしない……」 「……。ロベルトは馬に蹴られなさそうだね」 「は? 馬?」 「そ。東洋には『人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ』って言葉があるからね」 「東洋は何でそんなに物騒なんだ」 「ボクに聞かれても……」  さてこれで上手く気をそらせたかな、と相棒の身をひっそり心配していたライであった。
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