雨が上がって、幕も上がる

9/41
前へ
/520ページ
次へ
 大通りを行き交う人々とひっきりなしにすれ違いながら、ロベルト達は街の外に出た。かれこれ一ヶ月近くも部屋にこもりっぱなしであったため、街を囲う塀の外にでた気分はといえば…… 「ああ、娑婆の空気が死ぬほど美味い」 「ちょっ、やめて!? 刑期終えた囚人みたいな言い方しないで!?」  盛大にボケたロベルトにルヴォルスが突っ込むといういつも通りな光景が繰り広げられていた。  周囲に人が大勢いる中で一切何も憚らずにこんなことを言うものだから、外に出てきた冒険者や商人達が不思議そうな目を四人に向けている。  モンスターや大規模な盗賊の襲撃に備えて周りをぐるりと塀で囲んだ街の姿は、確かに巨大な牢獄に見えなくもない。  だが四人は捕まっていたわけではないし(若干名除く)、誰も悪いことはしていない。衆人環視の中でこんな発言をされては妙な誤解を生むというものだ。  おかしなものを見るような視線を受けながら、四人はその場をあとにした。  一応だが、フィーマと落ち合う場所は決めている。まだパーティが三人だった時にレッドウルフと戦ったあの場所だ。  そこそこ距離もあり、レッドウルフが出たとあって近付く冒険者も減ったと聞いている。もっとも、長い雨と一緒にそれも流れてしまったかもしれないが。  ともあれ、それなりに遠いのは事実。秘密の会合には打ってつけなのである。  こそこそしている方が逆に人目を引くということで堂々と草原を突っ切っていく。まだ雨粒が残っており、靴が草を蹴るごとに柔らかく揺れて小さな雫が舞い散った。  きらきらと光を反射する透明な滴を散らしながら、四人でゆっくりと歩く。吹き付ける風が肌寒くはあるが、日の光が暖かいため寒さそのものはあまり感じない。  ロベルトもすっかり元に戻り、仲睦まじい二人を生暖かい視線で見守れるようになった。 「何かこう……」 「ん?」 「アレを見てると彼女がほしくなる」 「確かに……。こんなに見せつけられちゃったらね」  視線の先には見つめ合い、微笑み合うルヴォルスとリリン。何やら楽しげに笑っている。幸せそうな恋人達の姿に、ロベルトとライは揃って砂を食べたような微妙な表情になっていた。
/520ページ

最初のコメントを投稿しよう!

243人が本棚に入れています
本棚に追加