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レッドウルフが現れた付近に着いてみると、そこには人っ子一人見当たらない。四人の他には動物がいるだけだ。
小鳥が囀ずる声を聞きながら、待つこと一分。緑多きこの場所に、ふっと一粒の火の粉が舞った。刻々増えていく火の粉は、やがてボフッと音を立てて小爆発を起こす。
煙の晴れたその場所には、いつものごとくフィーマが――
「……フィーマ?」
いなかった。影も形も見当たらない。少なくとも視界に入る範囲内にはいないようだ。
そもそも、いつもはこちらへ戻るときに火の粉を散らすことはあっても小爆発など起こしたことがない。起こす必要がないからだ。
普通の精霊であれば転移する場所の近くに自身の属性に準じたものが必要となる。例えば火属性なら火、もしくは一定以上の熱量を持った物体などがそれに該当する。
だがフィーマほどの高位精霊であれば、属性に準ずるものがなくとも目的の場所に転移できる。事実彼女は、火の気のないロベルト達の部屋に転移してきたのだから。
それが今回小爆発を起こし、さらに付近に見当たらないとなると、考えられることは一つ。
「まさか……転移に、失敗した?」
何らかの理由で、転移が不発に終わった。それしかないだろう。
「でもどうして。火の粉自体はこっちに来たのに」
「転移中に事故ったからああなった、んじゃないか? ルヴォルスはどう思う」
「うん……確かにフィーマさんの力を感じたから、こっちに来ようとしていたのは間違いないと思う。ただどうしてなのかは、ちょっと……。場所が離れすぎてて、辿りきれない」
「そうか……」
もしこのままフィーマが現れなければ、今まで立てていた作戦を練り直す必要がある。おそらくハインリヒがすでに近くに来ているであろう、この局面で。
それはできれば避けたい事態だ。今から練り直すとなると、場合によっては戦闘のための場所すら変える必要が出てくるかもしれない。
場所の変更をすると協力を要請しているエメルダにも多大な迷惑をかけることになる。作戦はもうすでに進行しているのだから。
火の粉が完全に溶け消えた緑の中で、突然訪れた予想外の事態に呆然と立ち尽くすしかない。
どうすればいいのだろうか。フィーマを追うにしても、どこから来ていたかも分からないのだ。無理がある。となればまずは待つことだ。もしかしたら、すぐに来るかもしれない。
ありえないと分かっているが、四人はとりあえず待ってみることにした。
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