242人が本棚に入れています
本棚に追加
しかし待てども待てどもフィーマは現れない。やはりあちらで何かあったのだろうか……。段々と不安になってきた一同は、忙しなく辺りにフィーマの姿を探した。
高位精霊たるフィーマが転移を妨害されてしまうほどの相手。頭に浮かんだのは、ハインリヒのことだった。
「……あっちに、ハインリヒが行ったのか?」
「こっちに来るより手っ取り早そうだし可能性はあるね。あいつのことだし変なところに住んでそうだけど」
「あー、なんか街に住んでるイメージあんまりないな。元々仙人みたいな暮らししてたって言ってたし」
「それがどういう教育を受ければあんなに捻くれるんだか」
「いや教育って歳でもなくないか……?」
微妙な顔をして突っ込んだロベルトは、そういえばあいつは五歳くらいの見た目でいることが多かったなと思い出す。
イデアは基本的に見た目と実年齢が一致しないので誰も気にしていなかった。
ともかく、フィーマが来ないのは心配だ。こんなことなら、何かしらの連絡手段を用意しておけばよかった。来てくれることを疑いもしなかったのは迂闊だったとしか言い様がない。
四人それぞれに別れて周囲を探しているが、人っ子一人見当たらないのは変わらなかった。やはりここはエメルダに相談した方がいいのだろうか……?
「……ロベルト」
「どうした? もしかして来たか?」
「あ、ううん。そうじゃないんだけど……」
ルヴォルスが不安そうに顔色を青白く染めて近付いてきた。仲間内でも神経の細いルヴォルスとしては、この状況は精神的にあまりいいものではないのだろう。
「あのさ、フィーマさんは……僕と契約するのがイヤで来なかったんじゃ……ない、よね?」
呪術をかけられたせいで黒い靄のかかったような瞳をゆらゆらと不安定にさ迷わせながら、言いにくそうに聞いた。
ロベルトの昔の仲間を疑うのは悪いけど……と思っているのは明白だ。
指をもぞもぞと絡め合わせながら申し訳なさそうにしている親友に、ロベルトは小さく笑って肩を叩いた。
「そんなことはない。フィーマもお前の力は認めていた。これは敵襲か何らかの事故だ。ルヴォルスとの契約を嫌がって、なんてことは絶対にないよ。俺が保証する」
そう言うと、ルヴォルスは緊張した面持ちを緩めてほっと息を吐く。
変なこと言ってごめんと微笑むと、またフィーマの姿を探しに奥の方へと歩いていった。
最初のコメントを投稿しよう!