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門下生達を閉じ込めている極秘の牢獄施設に、花火のように大きな爆音が轟いた。耳を聾さんばかりの音に、施設にいた職員達は飛び上がる。
音の正体はもちろん、ロベルトとリリンだ。油を染み込ませた布を巻いた矢で、火薬樽を射ったのだ。
どうやら施設の近くに銃などの武器を保存しておく倉庫があるようで、火薬樽はその入口にたくさん積んであった。連鎖的に内部の銃にまで飛び火し、大きい爆発になったのである。
そうやって混乱を起こしつつ、二人は現在颯爽と廊下を駆け抜けていた。途中にはいくつかのトラップがあったものの、事前に場所や発動条件を全て知っていたので一つも作動することはなかった。
二人の目の前で、飴色の扉が勢いよく開く。現れたのは施設職員と思われるひょろりとした男だった。顔は青ざめ、今にも気絶しそうなほどの動揺を露わにしている。
男は走る二人に目を止めると、ヒュッと喉の奥底で叫ぶ。
「だれッ……」
誰だ、と言うつもりだったのか、それとも誰かと言うつもりだったのか。掠れた悲鳴は、しかしロベルトが男の鳩尾に魔法を発動するための杖を叩き込んだことにより不発に終わった。
ぐぅ、と呻いて男は崩れ落ちた。
「先を急ごう」
「そうね。でも、飛ばしてきたドアは大丈夫かな……外に逃げたりとか……」
「あいつらなら何とかするだろ」
倒れた男を避け、二人はまた疾駆する。背後からは次々と扉の開く音がしている。ある者はこちらに向かって何か叫び、ある者の足音は遠ざかっていく。かなりの数を外に出してしまうことになるが、致し方ない。
前方と前々方、さらにその前方からも、人が溢れてきた。極秘牢獄のわりには職員の数が多い。オールドマスター一門の強者達が囚われているのだから当然なのだろうが。
「リリン、覚悟はいいか」
ここから先は、死が蔓延ることになるだろう。リリンもその手を汚すことになるのは間違いない。
魔法錠の破壊や魔生体の解除の任があるため、ロベルトもリリンを守ることにばかり気を割いてはいられない。だからリリンが……人を手にかけることになっても、それを阻止することができない。
まだ折れてほしくない。何とか持ちこたえてくれることを願うばかりだ。
「うん。行こう!」
人が近づいてきた。いよいよ、戦いが始まるのだ。一方を救うためには他方を犠牲にしなければならない。冒険者とはそういう仕事である。
だからこそ、とロベルトは思う。
せめて手の届く範囲内の大切な人達だけでも、この手で守りたいと。
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