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炎天使フィーマの右手に炎が渦を巻いて集まる。パチパチと弾け飛ぶ火の粉が、彼女の正面に陣取るロベルトの金髪を焦がした。だが本人はそんなことを気にする様子もなく、一心に詠唱している。
「――地の下を流れゆく風を閉じ、空へ大輪を咲かせよ」
静かに紡がれた言の葉が、呪文を完成させた。
《準備はいいかしら?》
「ああ」
《炎華連斬》
「真空風鎖!」
二人の技が衝撃波が発生するほど強くぶつかり合う。火花は風であちこちに散り、生まれた衝撃波は後ろで見ていた二人の体を一メートルほどめ吹き飛ばした。
《ふむ、弱っていてもさすがに強い……》
「こんな小手調べに押し負けるようじゃ名が廃るよ」
相殺された二つの魔法は徐々に収束していき、やがて完全に消えた。それでも辺りの被害は甚大で、壁は天井まで黒焦げになっていた。
飛び散っていた赤黒いモノが綺麗に上塗りされて、見栄えは前より整っている。やはりあんなものが散っているより黒焦げの方がまだマシだろう。
天使はまた微笑むと、今度は左手に炎を集め始める。その炎はさっきよりも大きく、色もクリムゾンレッドと言うに相応しい色をしていた。
それを見たロベルトは表面上は余裕ぶっていたが、内心は焦りでいっぱいだった。
(くそっ、やっぱり強いな。このままで勝てるか? 有効属性は水で、水の精霊自体はリリンのおかげでたくさんいる。でも……今の俺じゃあ大技一発で仕留めないと魔力が足りなくなる)
操天魔法を含む上級大魔法には魔力消費の度合いによって難易度別に分類されている。ロベルトがいつも使っているのはその中でもランクが一番下のものだ。
けれどもフィーマを相手にしてそれで通用するわけがない。一番高いランクのものを何度も使わなければきっと勝てない。
イデアの頃や力を奪われる前なら何とかなっただろうが、今は無理だ。魔力が見える分燃費をいくらかよくすることはできるが、その程度で何が変わるわけでもない。
だから、一発でフィーマを倒す必要がある。
「厄介なやつと契約しやがって……」
どうするべきかと考えを巡らせる。フィーマは四大精霊の眷属であるため精霊でありながら物理攻撃も効く。効くが、相当な攻撃力がないとダメージはいかない。
(どうする、どうする俺……!)
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