救出作戦、始動

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 何とか彼女を一撃で倒す方法を考えなければならないというのに、悩む時間もほとんどない。刻一刻と、フィーマの左手に集まる炎は力を増し続けている。  地下三階を蹂躙する熱風を正面から受けながら、ロベルトは杖を構えて動くに動けなくなっていた。 (魔法を撃ってすぐ物理攻撃するか? いや、ライがいたらそれも可能だろうけど俺だけじゃ威力が足りない。そもそも思念が具現化したみたいな精霊を相手に人間がまともにやって勝てるかよ……!)  精霊にいわゆる肉体はない。人の信仰が高まった結果に生まれた種族ゆえだ。だからよほど強い力を持つ精霊か、ルヴォルスのような特殊な体質でもなければ実際に見ることはできない。  人間のように思考があり、命が定義されている『生物』は精霊に対して物理攻撃の効果が薄くなってしまう。生物は皆、少なからずこの種族を信仰しているからだ。  ロベルトもその例に漏れず、人並みには信仰している。それなりに効くには効くのだろうが倒すには至るまい。  何の魔法を唱えれば必殺の一撃になるのか見当も付かず、しかも無駄撃ちもできないため、まだ一節たりとも詠唱していない。だがもうすぐフィーマの攻撃が発射される。 (せめて、せめて魔法耐性のある道具があれば!)  全力で考えを巡らせながら、辺りを見回す。何かしら有効な道具がないか、と。だがそんな都合のいいものがほいほいあるはずもなく、何も見つけられない。 「ロベルト……ッ!」 心配と不安が入り混じった声で、リリンが幼馴染みの名を呼ぶ。振り向くと、大切な幼馴染は泣きそうな顔をしていた。今にもこぼれ落ちそうなくらい涙がたまっている。 (ああ――)  潤む瞳を見た瞬間、守らなければと思った。こんなに強力な精霊を目の当たりにして、平気なはずがない。ここに来た時点ですでに相当辛かったはずなのに、それ以上のものを見てしまった。 (何焦ってんだ、俺。昔も言われただろ、お前はすぐ焦るから猪突猛進だと思われるんだって) ――自分には普通の人間にはない戦歴がある。フィーマのこともよく理解している。それならば魔法も、きっと。  大きく息を吐き出して、心を落ち着ける。目を閉じて、考える。勝利への道筋が見えると信じて。
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