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回想 最強コンビが生まれた日
「それじゃあまずはイデアの武勇伝よね。帝国戦争の話は聞いたけど、他のも聞きたい!」
「うん。オールドマスター一門の話、結構興味あるし」
きゃっきゃとはしゃぐ二人の様子を見て、ロベルトとライの門下生組も楽しそうに笑う。
「それじゃあまずはあの話だろ」
「いきなりアレいっちゃう? 懐かしいなぁ」
嬉々として口を開いた二人は、『あの話』を語り出した。
それはまだ、二人が相棒として活動し始めて間もなくの頃だった。連携も拙く、個人の方がいい結果を出せた、そんな時期の話。
「だから! ボクが右に動いたらロベルトは左でしょ!?」
「何でライが右なんだよ! 俺が右に動くから左に行けよ!」
一門の訓練場に、二人の怒鳴り声が響き渡っていた。つい先日師匠からコンビを組めと言われてから毎日連携の練習をしているのだが……全く上手くいかない。
原因は分かりきっている。二人の主張の強さだ。左右どっちに動くかという、ただそれだけのことでこれだけの大喧嘩ができるのだからお察しである。
別に反りが合わない訳ではない。いつもなら親友と呼べる仲だ。だが、こと戦闘になると途端に喧嘩を始めてしまう。これには訓練場で技を磨いていた者達も閉口していた。
「いい加減にしろよ! 何なのさっきから!」
「それはこっちのセリフだ、邪魔ばっかりしやがって!」
まるで元々犬猿の仲であるかのような激しい口論が繰り広げられているそこに──
「こら、二人とも!」
雷が落ちた。
「げっ……」
「エメルダ……」
「師匠が探してたわよ。二人に依頼だって」
「何それ、二人で行けってことか?」
「一人ずつじゃない。連携とか無理じゃん」
舌打ちでもしそうな勢いで睨み合った二人は、同時に顔を背けると足並み揃えて師匠の部屋へ歩いていく。
あれだけ派手に喧嘩をしておきながら隣り合って歩ける二人に、エメルダや他の門下生達は「何なんだあいつらは」と思わずにはいられなかった。
肩をいからせて怒鳴り合うこんな二人が、のちにイデアの最強コンビと呼ばれるようになる……とは、本人達もまだ知らない。
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