救出作戦、始動

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救出作戦、始動

 空には泰然と、月が立っている。現在、作戦開始二十分前。四人はすでに配置について最終調整をしていた。  開始時刻になったら突入組が派手な物音を立て、それをルヴォルスが風の精霊の力を借りて地下へ音を届けるようになっている。音が聞こえると同時に、中にいる門下生達が一斉に反抗し始めるのだ。  静かな闘志をみなぎらせるロベルトとライの視線の先には、外見上はいたって普通の建物がある。この建物の地下に、仲間達がいるのだ。  一見するとどこにでもある建物だが、その中身はトラップだらけとなっている。大量に設置されたトラップを何年も何年もかけて、門下生は暴いたのだ。今日、この日のために。  張り詰める空気は触れれば弾けてしまいそうで、呼吸をすることすら躊躇われるように冷たく静かだ。  ロベルトは懐中時計に目をやった。あと、一分。 「ライ、ルヴォルスを頼んだぞ」 「分かってるって」  ライが軽く頷くのとリリンが気合いを入れて強く拳を握り締めるのを見、ロベルトは声を上げた。 「突入!」  さっと身を翻し、建物へ向かって一直線に走る。後ろからはリリンもちゃんとついてきている。  建物の前には当然ながら見張りがいた。リリンを振り向くと、決意を固めた目で見張りを見ている。やる気だ。闘志は削がれていない。  リリンは素早く矢をつがえると、立て続けに二本を射た。それは吸い込まれるように見張りの体を貫く。液体が体から排される不愉快な音が聞こえた。  背後でリリンが息を飲む。己の所業に恐れを感じているようだ。  いくら冒険者になったとは言え、今まで人を傷つけたことなど一度もない少女だ。恐れを感じるのも、腰が引けてしまうのも仕方がないだろう。 「大丈夫だ。俺がいる」  安心させたい一心で、そう声をかけた。  リリンの足音は、止まらなかった。  その様子を見守っていた居残り組のルヴォルスは小さく呟く。 「すごいな、リリンは」  自分だったら、この時点ですでに心が折れていたかもしれない。そんな風に思ったのだ。  彼女はいつだって強かった。それが二人の心の支えにもなっていた。リリンがいなければ、今、ここにこうしていられなかったかもしれない。 「僕も、負けてられないな」  前衛組と後衛組というバランスの悪い組み合わせにしたのだから、それなりの働きをしなくてはならない。普通は、後衛だけで突入することはあり得ないのだから。  ルヴォルスは深く息を吸い、剣を握り直した。
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