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押し寄せる数十人の職員達に対し、こちらの人数は遠距離職がわずかに二人。明らかにこちらの分が悪い。だが二人が焦ることはなかった。
走っているうちに自然と、ロベルトが前、リリンが後ろの構図ができる。ロベルトとて伊達にイデアの五番にいたわけではない。それなりではあるが接近戦も可能だ。
杖を握り直し、低く構える。
「はぁっ!」
気合の声とともに横薙ぎに杖を振るう。振り抜いた姿勢のまま腕を体に引き戻しながら一回転し、勢いをつけてさっきとは逆の方向に杖を払った。前にいた職員達は振り回された杖に殴られ、吹き飛んでいく。
続く第二陣が走りこんできた。それを見たロベルトは、前のめりに体を倒す。頭上をいくつもの風が通り過ぎていった。
ビュッと風切り音を重ねるのはもちろんリリンの放った矢である。射出の速度は熟練の弓者並みだ。容易に第二陣を切り崩していく。
「リリン、ここは俺が崩せる! 後ろに逃げたやつを頼む!」
「分かった、気をつけて!」
リリンは振り返り様に、悲鳴を上げて逃げ惑う職員に向かい数発射る。それはこちらに背を向けて走り去っていく背中に簡単に飛びついていった。
赤い液体が止めどなく広がっていく。それは平時ならひどく恐れてしまう光景だったが……今は興奮状態にあるからか、気持ち悪さも全くない。
快調に矢を飛ばすリリンは、今までにない手応えを感じていた。
一方のロベルトはというと、彼も何の危なげもなく職員達を倒して回っていた。
今出てきているのはほとんどが事務方のようで、まともに武器を持っている者すら少ない。これでは狙いたい放題である。
わずかに剣やら何やらを装備している者はいても、所詮は素人。外見年齢はともかく、イデアとしての記憶のあるロベルトに敵うはずもなかった。
「警備を呼んでこい!」
「だ、誰か戦えるやつはいないのか!?」
職員達の絶叫が迸る。忙しなく視線を行き来させ、右往左往する人々の群れ。そこに手加減もなく杖を叩き込んでいった。ライ直伝の対人戦闘術である。
例え魔法が使えなくとも、それならそれで問題はない。いくら何でもこんな素人達に負けるわけがないのだから。
唯一の気掛かりは、この施設にどこかにいるであろう魔法使いだけだ。
数人を一気に片付けながら、ロベルトは目に力を込めて魔法の残滓を探り始めた。
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