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結局、あのライカは拝み倒して、私のものになった。正晴お父さんは、新しいライカのモデルを買うのだと意気込んで、お母さんにおこずかいの交渉中だ。
夏休みは3人で、どこか撮影旅行に行く計画もある。何かと忙しい。
晴れるといいねとお母さんは言うけど、雨なら雨で、更にもっといい写真を撮る自信がある。
「あ、あれ?」
私が最後に仕上げたパネル張りを見て、部長が声を漏らした。
「どうかしました?」
微かに、嬉しい予感。
「いや、ごめん。何か、その紫陽花の向こうに、修一が……」
「見えましたか、部長。最高です」
私は部長の手を取ってぶんぶんと振った。
「え……」
時々、ほんの時々、あの日撮った紫陽花の向こうに、修一がいるような気配がする時がある。
もう、それだけで心が温かくなる。
心配性の修一の置き土産。
あの雨の日の、奇跡。
お父さんのカメラはあの雨の日、本当にいい仕事をしてくれたと、私は思うのだ。
(了)
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