やさしい雨のむこう側

2/18
48人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
雨はとても柔らかくて、フラフラと歩く病み上がりの私を、心地よい湿度で包んだ。 昨日まで熱を出していたため、もう三日も学校を休んでいた。 今朝目を覚まして熱がひいたのを確認すると、もうこれ以上部屋に引きこもっていてはいけない気がして、早々に着替えた。 今日は土曜日で、学校は休みだという事に気づいたが、ブレーキはかからなかった。 頭はまだ、霞がかかったようにぼんやりしていたけれど、逆にそれが心地いい。 まだ夢の中にいるような、この感覚で、ずっと居たかった。 雨の匂いの満ちた古い住宅街のはずれに、小さな公園があって、垣根代わりに植えられた紫陽花(あじさい)が、色鮮やかに咲いていた。 晴れた日には目立たないのに、こんな雨の日にはキラキラと自己主張して来る。 私はトートバッグから、古いフィルムカメラを取り出した。今日初めて手にする、継父の正晴(まさはる)さんから借りたカメラだ。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!