やさしい雨のむこう側

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私は駅前まで走り、すぐにフィルムを現像に出した。同時プリントも頼み、45分後、出来上がるとそのまま、真っ直ぐに家に帰った。 家では正晴さんが、リビングにモップがけをしながら私を待っていてくれた。 「お帰り。いい写真撮れた?」 私はその笑顔にホッとし、そして底知れない怖さを感じた。 その不安は正晴さんにではなく、自分の存在するこの世界に対してだ。 「うん。きっといい写真になってると思う。まだ現像見てないんだ。一緒に見てくれる?」 精いっぱいの笑顔で言った。笑っていないときっと泣き出してしまうと思った。 封筒から取り出した焼き付けプリントは、撮った順番に重ねられていた。 公園の生け垣の紫陽花は、肉眼で捉えたものとは明らかに違う深みを持っていた。 雨粒は一つ一つ世界を映し、淡い紫系の花色は、モノトーンの世界を柔らかく彩って、ほっとさせてくれる。 「綺麗だね。よく撮れてるよ」 正晴さんは目尻に皺を寄せて褒めてくれる。嬉しかった。けれど、とてつもなく怖かった。 1枚1枚、写真をめくっていく。
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