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「意味ないじゃない。修一がいないのにこんな世界、こんな自分、何の意味もないじゃない。修一がいないのに!」
テーブルを激しく何度も叩く。痛みは感じないのに音が耳に痛かった。
自分の立てた音にすくんだ私の手は、そのまま大きく温かい手に包み込まれた。
その手はとても力強く、私は振り払う事が出来なかった。そのままぐいと引き寄せられて、私は正晴さんにすっぽり抱き留められてしまった。
私の中の悲しみの濁流は収まる事はなかったが、私を抱きしめてくれるその力が、何を意味しているのかは、別の部分で確かに理解が出来た。
『夕夏はぜんぶ、ちゃんとわかってるんだよね。何が良くて、何が良くないのか』
耳の奥に、修一の言葉が蘇る。
あれは修一の言葉なんだろうか。それとも、自分の奥底にある、自嘲の言葉なんだろうか。
『だからもう、何も言わない。ただ、本当に大切なものを、見逃さないで』
大切なもの……。
「夕夏、ごめんな。呑気にカメラなんか貸して。そのせいで余計辛い事を思い出させたのかもしれない」
私の肩を抱いたまま、正晴さんは涙声で続ける。
「でも、何もないなんて言うな。絶対言うな。夕夏は夕夏で、もうそれだけで大切な存在なんだから」
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