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「夕夏、もう起きても大丈夫なのか? 熱は?」
今朝、久しぶりにリビングに降りて来た私を待っていたのは、母親ではなく、正晴さんだった。
手には泡だらけのスポンジとコップ。朝食の後片付けの最中だったらしい。
正晴さんは、シングルマザーにしてバリバリのキャリアウーマンの母親と、2年前に結婚した。私が中3の夏だ。
とりあえず私は、結婚には特に反対しなかった。正晴さんは人畜無害な穏やかな人で、特に好き嫌いの感情は無かったし、お母さんの笑顔が増えるなら、それもいいかな、と。
けれどまさか、専業主夫になってしまうなんて、思わなかった。家事検定にも受かった、家事のプロらしい。
家に帰るといつもいるのは母親ではなくて、2年前まで赤の他人だった40歳のおじさんなのだ。少し萎える。
優しい人だとは思っていたけど、優しいのは、頼りなさとイコールだった。私が困ったときも、ちょっと生意気な口をきいても、腫れ物に触るように、ただ距離を置いて見つめるだけの人。
高校2年生の血のつながらない娘の扱いに戸惑うのは仕方ないけれど、その頼りなさからか、父親というより、住み込みの家政士さんと言う感じしか、しなくなった。
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