0人が本棚に入れています
本棚に追加
引き倒された。後頭部をひどく打つと気絶する、と一瞬判断して何とか腕を──骨が折れるような嫌な音。これの再生にエネルギー使うとしばらく動けない。
やばい。まずい。本当に。その間にも足に巻き付いた何かでぐいぐい引っ張られて。ざりざりが体中にまとわりつく。
痛い。痛覚殺せたら楽なのに。それは出来ない。残念ながら。
「──よっ」
妙に呑気な声と共に女が塔屋に上がって来た。ロープを伝ったのだろうか。…いや、あったかそんなもの? 見えなかったぞ。
もうじたばたしてもどうしようもない。改めて足首を見る──と。
「え」
細長い金属だった。紐状の。それが、するりと足から離れて女の手の中に吸い込まれる。
「銅です。10円玉の材料としてお馴染み」
彼女が指先でつまんでいるのは10円玉そのもの。
「比較的加工が容易でして。私の場合はたまにこんな感じで即席で道具にしちゃうんですけどね」
10円玉を引き延ばしたにしたって長すぎるし太すぎる。明らかに量が違わないか、さっきと。
「ああいや、日本銀行発行の10円玉じゃないからねこれ。ニセ金作りなんて手出しませんヨ私。ただのサンプル」
言った途端にそのコインが風船みたいに膨張して見えた。小さなボール。恐らく銅の塊。それを、軽く投げ上げてキャッチして、ガウチョパンツ(…だと思う)のポケットにすとんと落としていた。
最初のコメントを投稿しよう!