episode.1 再会

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 男が挨拶した相手は女性のようだ。女声が短く答える。重い足音は塔屋の扉の中へ消える。女は、まだ屋上に残っているようだ。恐る恐る頭をまた少しだけ突き出す。  視界のギリギリに、丸テーブルと椅子が見える。女はそこに座った。テーブルの上には何か──小石のようなものが乗っている、ように見える。月の光を受けてきらきらしている。インテリアだろうか。屋上だけれど。  またそっと後ろに這って大きく息をつく。音を立てないように。  ……彼女がそこにいる限りはしばらく動けない。もしさっきの連中が彼女に目的を伝えていたとしたら、報せに行ってしまう可能性だってある。  こんな時本当に「吸血鬼」なら眠らなくて済むのかも知れない。が。僕は当たり前に眠くなって来る。もうこのまますとんと落ちてしまいたい。疲れていた。ここが安全という保証はないけれど。  今の会話から判断する限り、彼女はこの建物のオーナーだと思われる。男たちは許可を得ない限りは立ち入れない。少なくとも屋上には。  ビルの1階はコンビニで、2階にはまた何か別の店があるらしい。ちらと見た看板では、業種の判断がつかないカタカナが並んでいた。昼間、店が開店している間であれば、階段下に看板でも出しているのかも知れないが。  うつ伏せだと呼吸が辛くなって来た。せめて仰向けになれないかと、体を少しずつ少しずつずらしにかかる。     
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