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「でアパタイト。燐灰石ね。こっちは引き付けるとか絆とか、そういう方面で動き易い。ただコトが恋愛方面の時はローズクォーツの方が『はしゃぐ』んで、アパタイトが動くのは──運命とか宿命とか。そんな感じ。むしろ会うことで破滅するよーな相手でも、出会いたくないような相手でも動く」
その間も、キンキンした音が続いているのだ。陶器の上を転がる石の音。だから。もう。この女が手で動かしている訳ではないのは明白だ。
それに──『動く』と言った。女は。石が、能動的に、『動く』? 何かに動かされる、訳ではなくて?
「つまりこいつらが訴えているのは」
女の声は淡々としている。──少しだけ間が空いて。
「『血の宿命』だ。──臨終吸血鬼」
体を跳ね上げた。
基本的には人間と同じ筋肉しか持っていないはずの僕の体は、『血』を特殊な方法で使うことで、壊れる端から筋肉を一瞬で再生産する、みたいなことが出来る。だから体が『壊れる』ことを気にせずに異様な瞬発力で動くことが、出来る。
長くは持たないその力は主に逃げるために使って来た。今も同じ。塔屋の上から──つまりほぼ4階の高さから、一気に飛び降りるか、それとも女を気絶させて逃亡するか。どちらにしようかと、ほんのわずか、迷う間に、
「──っあ!?」
小さな何かが足にぶつかった、と思うと同時に、紐のようなものが巻き付いていた。
「が、」
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