手探り

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「……あとは片しときや」 密室に、静かに男の声が響く。意外にも若い声。 男がもう一人、笑いながら近づく。 「あーあーあかん、物騒やわ。初手からこんなもんぶっぱなして」 「しゃーないやろ、まさかこんなとこ襲ってくる思わんから」 「素人さんやろか」 「そうやな、作法がなっとらん」 「そらあかんわ。……にしてもお前さん、よう無事でおったなぁ」 「まあな……」 「なんや、理由あるやろ。教えてくれへんのかい」 「…………」 男は口を噤んだままだ。 もう一人の男が顎で催促するも、喋ろうとはしない。 仕方なくもう一人の男が場を保とうと声を上げかけた。が、 「…………」 言葉が出てこない。 二人、無言のままで、互いを見つめる。 それぞれ間合いを計る。 窓の外から雨の音。 すると最初の男が、ふへ、と息を吐くように笑った。 「……極道っぽいやり取りってむずかしいな」 男のセリフをきっかけに、もう一人の男も同じように笑う。 「極道風の台詞しばりっていうお題がなぁ」 「なんだよ俺のお題が悪かったってか」 「俺キタノ映画くらいしか知らねぇもん」 「マジか」 「お前の関西弁も嘘だしな」 「俺の関西弁が嘘ならお前のは大嘘になるな」 ちなみに二人とももちろん極道などではなく、暇な大学生だ。ただでさえ暇なのに今日は一日中雨でさらに行動範囲が狭まっていた。 金もなく、やる気もない中、寮部屋で始まったくだらない遊び。 今期は雨が降る度にこういうやり取りが繰り返された。
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