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プロローグ
―ねぇ、何でこんなことなってるの?
冷たくて暗い部屋。
目の前にいるのは、
かつて笑顔が素敵だった男の子―
ああもう、毎日、よく混むなあ。
なんで一本道なんだろ?
この道は、学校の裏手にあるグラウンドに入る一歩手前にある。
両脇にはフェンスで囲まれた自転車置き場があり、自転車通学のものは、大抵ここを通ることになっている。
けれど、登校時間が近付くにつれて、次第にその人数も増していくので、朝にここを通る者は一苦労だ。
「おはよう、結椏。」
「明日美!」
「こんなところで何じっとしてんの?」
「いや、人が凄くて・・・じっとというか動けないだけ。」
「もう!無理にでも通らないと、遅刻しちゃうよ?」
人の多さに身動き出来ずに、どうしようかと思案していた私の手を掴むと、彼女は前へとぐいぐい進んでいった。
高校に入ってできた、少し強引だけど優しい友人。
人見知りだった私に、声をかけてくれた最初の子。
彼女の後ろで少しだけ振り返り、相変わらず人でごった返した道を見送る。
せわしなくどこか楽しそうに通り過ぎていく生徒たち。
グラウンドから小道に入ると、その先にある部活棟が目に入った。
こじんまりとした建物だが、授業間近のこの時間帯は、人影もなくひっそりとしている。
そんな棟をぼーっと見送っていると、二階の窓際に人影があることに気がついた。
この時間に、誰かがいるのは珍しい。
反射した窓ガラスでよく分からないけれど、制服からしてきっと男子生徒だ。
でもその姿は、どこか寂しそうに私の瞳に写った。
「ほら、結椏。ちゃんと前見て!」
「う、うん、ごめん。」
明日美にせかされた私は、前に向き直ると彼女のあとに続いた。
その男子生徒は、ほんの一瞬だけ私の脳裏をかすめただけで、次の瞬間には忘れてしまう。
―これが彼と私とたくさんの人間を巻き込んで起こる悲劇の始まりだとも知らずに...
「お前は、ただの暇つぶしの道具だ。」
「アハハッ人形が何言ってんの?」
「あなた・・・何も知らないのね。」
「俺に触れるな!!」
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