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story 147
「まず永治を助けた話だけど、ぶっちゃけ俺一人であんな紙一重の中、二人も担いで逃げられるわけないんだよねー。
正義のヒーローでもあるまいし、さ。
本当のところは組織の連中に手伝ってもらって、二人をいや、正確には一人と一体をかな?外に、出した。
でもその後、永治は気を失ったよ。
まあ、当然だよね。
あんな出血して、死に掛けも同然だったわけだし。」
私は、座り込んだまま、大空くんの言葉を聞いていた。
でもそんな彼の言葉に、混乱している自分もいる。
大空くんは、組織が手を貸してくれたといった。
それなら組織は、何のために彼を助けたの?私たちがこうして、いることだってそうだ。
組織は、なんのために私たちを生かしているの?
私たちに何か利用価値があるの?
それとも、
逡巡していると、まるで彼はそんな私の疑問を見透かしたように、
「組織なんて、嘘だよ。」
そう言い放った。
え?
大空くんの言葉に、西園寺さんがやっぱりと告げる。
彼女は、どこからか分からないけれど、それを感じ取っていたらしい。
「じゃあ、さっきの人達は、」
私がそう口を開けば、
「組織は、組織だけど、人殺しの集団じゃない。...レジスタンス。俺が作ったんだ。」
大空くんは、真っ直ぐにそう言った。
「あんたが、作った?」
西園寺さんは、どこか訝しげな顔で、そんな大空くんの言葉を待っていた。
「永治があんたと逃げた後、俺、しばらく組織に居たんだよね。
別にどっちでも、良かったし。
下手に逃げて、追われる身になるとかそんな面倒な生活もしたくなかった。
でも、ずっと機会を窺ってた。
あいつに思い知らせてやる機会を、ね。」
「あいつ?」
「ここからは、俺の過去だよ。ちなみに組織でもトップシークレットな話だ。」
大空くんは、冗談のように茶化した話し方とは、不似合いな顔で続けた。
「組織を作ったのは、俺の親父だよ。」
その言葉に、何も言うことが出来なかった。
だが、彼がそう言い放った瞬間、はあ!?と隣から西園寺さんの叫び声が上がる。
私だって、驚きで絶句してしまった。
「それこそ嘘じゃ、ないわよね?」
思わず、そう確かめてしまいたくなるくらい。
大空くんの言葉は、信じられないものだった。
殺人集団を作ったというなら、それこそ組織のボスだ。
そのボスが大空くんの父親だ、なんて。
「ははっ、そんな面白い?」
でもそれを言った彼の顔は、変わらなかった。
今までの彼の姿もあって、本当かどうか逡巡してしまう。
「だから、あんただけ違ったの、ね。」
でも西園寺さんは、どこか腑に落ちる点があったらしい。
私の知らない、組織での彼の姿。
それが何か語られることは、なかったけれど。
でも西園寺さんも何かおかしいと、引っかかるものがあったようだ。
「まあ、そんな感じだよ。」
「一体、何が目的なの?」
西園寺さんが、続けて聞いたが、彼はそれに対しても何も返さなかった。
もうこれ以上、話す気は無い。
そんな雰囲気が彼を包んでいた。
きっと、彼にもそれなりの過去があるのだろう。
言いたくない過去を、無理にえぐり返される痛みは、私も分かっていた。
彼がこの組織を作ったということは、きっとまだ終わっていないのだ。
「ま、別に二人の邪魔をしたいわけじゃない。ちょっとしたサプライズ、ってとこ。」
楽しんでもらえた?なんて声が続く前に、西園寺さんが、大空くんのお腹に、勢いよく拳を入れていた。
彼は、いててと言いながら、だって場所を教えるわけには、いかないしさーと後付を続ける。
きっとそれが、彼にとっての答えなのかもしれない。
レジスタンスに私たちが入るならまだしも、そうでないのなら、仲間では無い人間に、この場所を教えるわけにいかなかったのだろう。
そう推測したものの、それならそれで目隠しするなり何なり方法があったのでは、とも思う。
だから本当のところ、彼の真意がどういったものかは、分からなかった。
もしかしたら単純に楽しんでいた可能性もあると思うと、拳を入れた西園寺さんの気持ちも分からなくもない。
「あの一つ、いいですか?」
「ああ。っていうかあんた喋り方、直ってるね。」
「え、」
そういえば、いつの間にか普通に喋ることが出来ていた。
どうしてだろう。
まだ彼に会えたわけでは、ないのに。
それは、小さくても希望を見つけられたからか。
自身でも理由は、分からなかった。
「で、なに?」
「彼が生きているのは、確かですか?」
「それは、何度も言ってるよ。生きてる。」
「....ッ」
ああ、やっぱり彼は生きているんだ。
例え何があったとしても、彼に再び再会することが出来る。
それだけで、私の思いは言葉に出来ないほどに、嬉しさが滲んでいた。
「で、肝心の永治は、どこなの?」
西園寺さんが、涙ぐむ私を横目に彼にそう聞いた。
そうだ、永治くんは今どこに?
「永治なら、ここにいるよ。」
「ここに?」
「ああ、この病院の中にいる。」
それが大空くんが教えてくれた、彼の居場所だった。
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