story 3

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story 3

学校で起きた、異質な出来事。 戸惑いながらも帰ろうと鞄に手を掛けた時だった。 「心、ちょっと来い。」 出て行ったと思っていた先生が、窓の向こうから小さく手招きをしていた。 何だろう?と思いつつ明日美を見ると、 「待ってるから、行ってきなよ。」 と、彼女は快く送り出してくれる。 それにしても一体なんだろう?と疑問に思いながら、先生の下へ向かった。 廊下に出ると先生は、悪いなと申し訳なさそうに眉を寄せている。 そして小さな声で、 「警察が、お前に話を聞きたいらしい。」 と告げた。 「え?」 予期せぬ言葉に、思わず聞き返してしまう。 それは、予想だにしないことだった。 頭の中に、なんで?どうして?と疑問符ばかりが浮かぶ。 だって私は、山本君と接点どころか、彼の顔さえ分からないのだから。 「なんで心が呼ばれたのか、先生もよく分からないんだ。何か思い当たることはあるか?」 「いえ、分かりません。」 そんな私の様子を見て、先生は安心させるように微笑んだ。 「そうだよな。まあ、大丈夫だ。俺も後で、様子を見に行くから。」 先生も来てくれるという言葉に、少しだけ安堵する。 でも、どうして私だけ? 不安に思いながら。明日美にもどう伝えたら良いか迷っていた。 警察に呼ばれたなんて言われても、自身でさえよく分かっていないのに。 すると先生が、 「悪いな岸谷。心なんだが、ちょっと面談のことで話があるんだ。」 「えー?先生。何も、今日じゃなくたっていいじゃないですか!」 「そうなんだが、ちょうど今しか時間が取れなくてな。」 「ええー....」 こんな時に、という明日美の反応は当たり前だろう。 不満そうに声をもらす明日美。 教室で待ってると言ってくれるが、それも先生が送るから先に帰りなさいと止められる。 「じゃぁ、私も送ってください!教師と生徒が1対1なんて怪しすぎます!!」 「誰が大事な教え子に手なんかだすか!それに俺は、新婚なんだぞ!」 なにを勘ぐぐっているのか、そんな明日美の言動に先生も指輪を見せ付ける。 私は少し前に新婚旅行で、ハワイに行ったことを授業中にも関わらず話し出した先生のことを思い出していた。 とにかく、と一つ咳払いをして先生が言葉を続けようとすると、別の女の子たちが話を割って中に飛び込んでくる。 「明日美ー、今日は心ちゃんと帰らないの?」 「あ、うーん。」 明日美は人当たりと面倒見のいい性格から、色んな子達と仲がいい。 どこか悩んだ様子の明日美だったが、彼女たちから、 「うちらと帰らない?」 と声が飛べば、渋々とした様子で頷いていた。 私を心配そうに見る彼女に、大丈夫だからと告げる。 「先生、絶対に結椏に変なことしないでくださいね!?」 「お前はどこまで俺を信じてないんだ!?」 どこまでが本気なのか、念を押す明日美と悲しそうな先生の声。 そして、えー先生まさか!とそれに便乗してくる女の子達と、違う断じて違う!と否定する先生。 まるで何も変わらないような、いつもの光景を背にして私は歩き出す。 背後では女の子達が寄り道の相談をし始めて、先生は真っ直ぐ帰れと諭す。 はーい、なんて元気な声が挙がるものの、それが返事だけということは、先生も分かっているのだろう。 お前らな...なんて声が続いていた。 次第にその声も遠ざかり、私は一人で廊下を歩いた。
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