story 6

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story 6

事件が起こっている学校で、私は各々に噂のある彼らと出くわす。 そこに、同じようにして現れた田崎先生。 先生は"ジシュ"という言葉を口にする。 それが一体どういう意味なのか。 その疑問は、次の瞬間に嫌というほど、思い知ることとなる。 知らないままならまだ、引き返せたのに。 え?今、なんて? ジシュってもしかして自主勉強のことかな? という、私の予想を大きく跳び越えて、先生は一気に話を進めていく。 「山本という生徒を殺したのも、君達なんだろ?学校でこんな事件を起こしたら、いくらなんでも隠し切れないぞ。」 「はぁ?何言っちゃってんの先生。あんただって、こっち側だろ?」 はぁー?という声と共に、大空くんは尚も動じることなく答える。 「どうして、こちら側だった先生がそんなことを仰るのか分かりませんが、私たちが捕まったりしたら先生だって困るのでしょう?」 じっと先生を見つめる西園寺さん。 「ああ。...直接手は下してないとはいえ、俺も無事ではすまないだろう。 ...でも、それでも構わない。それが俺の犯した罪だからな。 お前たちももうこんなことは、止めにするんだ。今からだってやり直せる。 例え、お前たちの生きてきた世界が、どうであったとしても。」 「どうやら、お話をするだけ無駄なようですね。」 先生は必死に三人を説得しようとしていた。 自首をしろと、まだやり直せると。 そんな先生の言葉を遮るように、西園寺さんが呆れた様子で言葉を返す。 ただ一人、澱黒くんだけが、変わらずの姿勢でその状況を静観していた。 「存外、大切な人間でも出来たのでしょうが、今更抜けたいだなんて虫が良すぎますよ?」 「そうそう。俺たちは同じ穴の狢って、ね!」 大空くんが西園寺さんの会話に加わったと思うと、まるではじき出したかのように、そこで会話が途切れてしまった。 そして、次の瞬間に聞こる先生の息つく声。 私が呆気にとられていると、続けてどさっという物音が聴こえた。 プランターの間からこっそりと様子を伺っていると、それは先生が床に崩れ落ちるようにして、膝を立てた音だった。 先生の目前には、西園寺さんが立っている。 そしてその手には、キラリと光るもの。 あれは、なに? 上に向けているそれは、逆光のせいで分からないが、先端が針のようにも見えた。 「っ...わた、しも殺す、つもりかい?」 膝をたてたまま、荒い呼吸で話す先生。 なにが、起こっているの? 「こう......なること、を、予想して....なかった、わけ、じゃ、ない.....よ」 ぜいぜいと、荒い呼吸のまま先生は続ける。 まるで最後の声を、絞りだそうとしているみたいに。 「君たちの、会話を.......録音させ、て、もらっ........た、」 「は?死に底ないのくせに、なーに言っちゃってんの?」 苦しそうな先生のもとに近づくと、上から覗き見るように、中腰になる大空くん。 そして、足を振り上げて蹴りを入れる。 ガッツンと鈍い音が聞こえ、先生がその場で手をつくように、後ろに倒れたのが見えた。 「で、その録音機の場所はー?」 容赦なく蹴りを入れ続ける大空くん。 それをただ眺めている、澱黒くんと西園寺さん。 やめて。 そこには見たくもない光景が広がっていた。 「ほーら、早くしないと死んじゃうよー?」 大空くんの声は、どこか愉しさを滲ませている。 まるで無邪気にボールを蹴る子どものよう。 先生の声が段々と小さくなっているのが、嫌でも分かった。 やめ、て... 思わず耳を塞いだ。 それでもなお、小さくとも体を嬲るような鈍い音が続く。 お願い、やめて............ 繰り返されていた行為だったが、先生は口を開こうとしない。 そんな先生をみて、これ以上やっても無駄だと悟ったのか。 「翔、」 という澱黒くんの一言により、大空くんはようやくその行為をやめた。 そしてそれは、澱黒くんがその時になって初めて口にした一言だった。 止まった?と、音がやんだことに安堵したのも束の間。 今度は、西園寺さんが驚きの言葉を放つ。 すぐ私の、近くで。 「ところで先生?この部屋にもう一人いるのは、ご存知ですか?」 え?と思った時には、いつの間に近づかれていたのか、そのまま手首を掴み上げられる。 突然、舞台に上げられた観客。 こうして訳も分からないまま私は、惨劇の前へと身を晒されることになった。
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