2.裏切り

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「それじゃあ、聞き方を変えようか。ばらされる前の人間であれば、いつ死ぬのかについては比較的明瞭な基準がある。心肺停止や瞳孔反射の消失などだね。ところが、細胞レベルまでばらされた状態では、各細胞が全て生きていたとしても、心拍も瞳孔反射も最初から存在しない。では、この状態になった人間の生死の境目というのはどこにあるのだろう。ばらした後の細胞を一つずつ殺していった時、『人間としての死』はどの時点で訪れるのだろうか。全ての細胞を殺した時? でも、細胞が一個や二個残っていたところで、元の人間を再構成するのは不可能だよね。クローン人間は作れるかもしれないけど、それはもう別の人間だ。では、ある一定数の細胞を殺した時だろうか。でも、同じ数の細胞を殺しても、それが手足の細胞かそれとも脳や心臓の細胞かで、生きた人間を再構成できるかは違ってくるよね。  じゃあ仮に脳や心臓の細胞から殺していくとして、どこまで殺した時点で人間としても死ぬのだろう。n個の細胞を殺した時点では人間としてまだ生きているけど、n+1個殺した時点で死ぬ、それに当てはまるようなnが存在するのだろうか。それとも、それらは全てあくまでも『細胞としての死』にすぎず、『人間としての死』は細胞レベルまでばらされてしまった時点で既に訪れているということなのだろうか。その時点で、心拍も瞳孔反射も脳活動も全て無くなるわけだし。     
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