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なんということだ。母は、そして同じ事故で死んだ父も、目の前のこの人の策謀により殺されたというのか。博士は母が死んで以後、何かと僕達兄弟の面倒を見てくれたが、その裏ではこんなことを考えていたのか。それなのに、こんな人をずっと恩人だと信じていただなんて。
憎い。
恨めしい。
自分の愚かしさが。
そして、博士が。
「うあああああああああああああああああああっ! 出せ! 畜生! 殺してやる! ここから出しやがれ! 絶対に許さないぞ! ああッあああああああああ!!」
肺が空になるほど声を振り絞りながら、扉を殴り続ける。だが、急にその手に力が入らなくなってきた。声も出ない。それどころか、意識にまで靄がかかり始めた。
『まず、君は麻酔をかけられて眠りにつく』
薄れゆく意識の中で、先ほどの博士の説明が脳裏に浮かぶ。
『その上で、君の体は一細胞レベルにまで分離され、その後、速やかに凍結されて輸送される。そして――』
駄目だ。ここで眠ってしまったら駄目だ。そうなったら最後、そのまま死んでしまうことになる。
そう思ってはいても、どんどん意識は希薄になっていく。
駄目だ、意識を保たないと。駄目だ、駄目だ、駄目だ……。
………………。
その強い思いが奇跡を起こしたのか、突如として意識が鮮明になった。そして眼前には、この世で最も憎むべき者の姿がある。
こいつを殺せば。今ここでこいつさえ殺せば、弟は助かる。両親の仇も討てる!
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