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それからは、ただただ幽霊の無力さを噛みしめる日々が続いた。
幽霊は実在する。だが、それによる祟りなどというものは実在しない。
そんなものがあるのなら独裁者や殺人鬼などはすぐに呪い殺されているはずで、そうはならないことは歴史が証明している。
幽霊にできることと言えば、せいぜいが呪詛を吐きかけ、精神的に追い詰めることくらいだ。しかしその呪詛とて霊能力者以外には全く聞こえない。
博士は幸いにして幽霊の声が聞こえる側の人間ではあるが、同時に、幽霊の呪詛など虚仮威し以外の何物でも無く、当人さえ気にしなければ何の影響も無いことを誰よりもよく知っていた。
人体分離装置を使用するために誰かがここを訪れれば、そして運良くその誰かが霊能力者であれば、博士の非道を告発することもできる。
そんな期待を抱いてもいたのだが、この部屋を人が訪れることはほとんど無く、博士すらたまにしか来なかった。どうやらこの部屋の装置は来るべき〝大冬期〟に備えて予め全国に配備されたものの一つにすぎず、普段実験に使用されているのは別の施設にあるものらしい。
弟はどうなったのだろうか。
既に別の施設で、博士により僕の時と同様の手口で殺されてしまったのだろうか。
この場から動けない僕には、それを確かめる術も無かった。
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