1.被験者

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 博士には、霊学の第一人者として調べなくてはいけないことがまだまだあるはずなのである。それにも関わらず、人体の分離保存・再構成などという全く畑違いの分野のプロジェクトに関わっているのはいったい何故なのだろう。 「そういえば、そのあたりの詳しい話はまだしていなかったね。君がこれから受ける処置、人体をいったん細胞レベルまで全てばらしてから、それらの細胞を使ってもう一度人体を再構成するというやつだけど、ニュースなどでも報道されている通り、人体そのものには何の影響も無いことが既に分かっている。一つの細胞も死なせることなく分離して凍結、解凍、人体再構成ができるし、再構成した人体は元の人間の時と全く同じものだ」  動物の体は細胞が集まって構成されている。それを、組み立てたブロックをばらすように個々の細胞に一度分離して凍結保存し、解凍後にそれらの細胞を使ってまたブロックを組み立てるように動物の体を再構成する――それが分離保存・再構成である。  普通に考えると、わざわざいったん細胞レベルまでばらさずともそのまま凍結保存と解凍をすれば良さそうなものだが、そこにはちゃんと理由がある。  よほど小さい動物でない限り、ばらされていない状態では凍結ならびに解凍時に温度変化が体の中心部まで達するのに時間がかかりすぎるため、体の深部にある臓器に障害が発生してしまうのだ。  一方、予め細胞レベルまでばらしておけば、凍結も解凍も速やかなためダメージは少ない。  問題は、一度ばらした体をきちんと再構成できるのかというところである。しかしこれについても、幾度にも及ぶ動物実験を経てほぼ失敗することなく再構成できるようになった。そして最近では、人間を対象とした臨床試験でも無事に成功をおさめている。  少なくとも、僕はそう聞いている。
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