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「お金か……。やはり弟君の学費のことで?」
事情を知っている博士は、確認するようにそう尋ねてきた。
「はい」
両親が飛行機事故で命を落としてからも、遺産と保険金、航空会社からの慰謝料、それに僕自身がアルバイトで稼いだお金で、なんとか生活はできている。
しかしそれだけでは、弟を大学へ行かせるのは厳しいものがあった。
もし、偉い人達の計画通り、〝大冬期〟が訪れた後も今と同様の社会が続くのであれば、やはり弟は大学に行かせてやりたい。
そのために割の良いバイトを探していた僕に、人体分離保存・再構成プロジェクトの被験者をやらないかと声をかけてくれたのが、母の後輩であり僕にとっても旧知の人である博士だった。
「政府予算の大半が〝大冬期〟対策に流れ込んでしまう前なら、大学にももっと補助金が出てたから、学費も今みたいに高くはなかったんだけどね。君達のお母さんには私もいろいろとお世話になったから、できるだけのことはしてあげたいと思っているのだけど、私にできるのはせいぜいこの被験者のアルバイトを紹介するくらいだった。申し訳なく思っているよ。研究費はそれなりに支給されてはいても、私的な目的で使えるポケットマネーはろくに無いからね……。悪徳心霊商法と言われるのが嫌で、霊観測装置の設計図と原理は無償公開してしまったが、あれの特許を押さえておけば今頃は大富豪になれていて君達の援助くらいわけなかったかもしれないのだけど」
「いえ、仮に博士が大富豪だったとしても、さすがにそこまでしてもらうわけにはいきませんよ。このアルバイトを紹介して頂けただけで十分です」
「じゃあ、本当にやるんだね」
「はい、お願いします」
僕のその言葉を聞いて、博士は口元に微笑を浮かべた。
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