2.裏切り

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2.裏切り

 案内された部屋には、大きめの棺桶に丸い窓をつけたような形状の機械が置いてあった。鉄パイプのようなくすんだ銀色で、何の塗装もされていない素材そのままの色といったところだ。  横にまわってみると、背面から何本ものチューブやコードが延びているのが目についた。  正直言って、不格好だ。 「そう言えば、実物を見せるのは今回が初めてだったね。これが人体を細胞レベルまで分離した後、凍結するための装置だよ。見栄えが悪いのは大目に見てやってくれ。なにしろ全人類の分離と凍結を行うのに必要なだけの数を作らないといけないわけだから、量産性重視で見た目にまで気を配る余裕は無かったらしい」  内心が顔に出ないようにしていたつもりだったのだが、装置の実物を目にしてちょっとがっかりしていたのを見破られていたようだ。  僕は定められた手順にしたがって、服を脱いで装置内に入った。  凍結が始まるのは分離が完了した後なので、今の段階ではまだ冷やされてはいないはずなのだけれど、装置内はどことなくひんやりしているような気がして、その中に裸で入るとどうにも心細さのようなものを感じる。  体全体が装置内に収まると自動で扉が閉まり、カチッと音を立ててロックがかかった。どうやら装置内にスピーカーが取り付けられているらしく、上から博士の声が響いてくる。 「念のため、これからどうなるのかを説明しておこうか。まず、君は麻酔をかけられて眠りにつく。さすがに意識がある状態で人間をばらばらにするわけにはいかないからね。その上で、君の体は一細胞レベルにまで分離され、その後、速やかに凍結される。そして、更にその後、再構成装置のある施設へ輸送され、そこで――」  わざわざもう一度説明してもらわなくても、同意書にサインする前にさんざん聞かされた話だ。  僕は、そう思っていた。次の言葉を聞くまでは。 「――君の細胞は、装置の故障を装って一つずつ、最後の一つに至るまで全て殺される。当然ながら、再構成は不可能だね」
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