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1.被験者
「それじゃあ、その同意書をよく読んで、それからサインをしてくれるかな?」
博士はそう言ったが、僕はざっと流し読みをしただけで、躊躇うこと無く机上の同意書にサインした。
既に腹は決まっている。これから自分が受ける処置に対する恐れも、特には無い。
現時点での被験者は国内だけでも既に百人を超えているし、彼ら全員において処置は成功している。加えて言えば、どうせ遠からず全人類が受けることになる処置なのだ、これは。
「それにしても、霊学の研究者である博士がどうしてこのプロジェクトに関わっているんです?」
僕は同意書を博士に手渡しながら、以前から疑問に思っていたことを尋ねた。
かつては非科学的な存在の代表のように考えられてきた幽霊だが、現在ではうってかわって科学的な研究対象の一つとなっている。そうなるきっかけを作ったのが、目の前にいるこの博士だった。本来であれば、ごく一部の霊能力を持つ人間にしか感知できない霊の姿や声を記録し、誰でも見たり聞いたりできるようにする装置を発明したのだ。
当初こそ疑いの目で見られたが、博士が装置の設計図を公開し、第三者の手で作られたそれによって実際に幽霊が観測されたという報告が世界各地の信頼できる機関から寄せられると、懐疑派の多くも認めざるを得なくなった。
以来、精力的に霊学研究が進められ、それに伴ってこれまでの常識が次々と覆されていった。
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