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僕はあの子に恋をする。
【○月×日】
桜が散っていく。
僕は、いつものように乗り込んだ電車の中で、彼女に見とれていた。
肩まで伸ばした黒髪。
まだ新しい制服になれない華奢な体。
その女の子は、憂鬱そうな顔で電車の自動扉の前に立ち、桜の散る様を眺めていた。
衝撃。
まるで、春一番が僕の心に吹き荒れたような。
僕の心は、彼女という存在の前に萎縮した。
僕の心は、彼女という存在の前に平伏した。
僕の心は、彼女という存在に支配された。
【○月△日】
その日は午後からの予定だったけれど、僕はいつもと同じ時間の電車に乗った。
理由?
聞かなくても分かっているだろう。
彼女に会いたいからさ。
僕は彼女の名前を知らない。
華やかで、煌びやかな制服に身を包んだ彼女は、まるで別の世界の人間みたいだった。
手を伸ばせば触れられるくらい、こんなに近くにいるのに。
僕には今一歩の勇気が足りなかった。
あと一歩。
彼女の心に踏み込める勇気があったなら。
でも僕にはそれが難しかった。
だから僕は、今日も名前も知らないアノ子に恋をする。
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