吾輩はニャーである。名前はまだ無い。

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『吾輩はなんでまたしてもこの御仁といっしょにおるのか……』 雑多なですくの上で吾輩は相変わらず幽霊のような顔をした竹本殿はカチカチと、ぱそこん、なるものを叩いていた。たまにこちらを見ては鈴をちりんと鳴らす。……なんだか以前よりも顔色が悪いような。 「……可愛がられてんだな。俺とは違う」 「……お前のご主人いい奴だな。俺とは釣り合わない」 ぽつりぽつりと呟かれる言葉は吾輩の知る熱を帯びている。もしや、と吾輩は思いつく。これはひょっとするとひょっとするのではないか? 『うーむ、なんとかしたいものだが……』 吾輩はそっと腕を組む。しかし、吾輩に与えられた命は竹本殿をけちょんけちょんにすることで。みりー殿の顔を思い出してぶるりと震える。 それにしても、涼香殿はどこなのか。きっと近くにいるとは思うのだが……。出会えなければ吾輩はもう二度と帰れない……。別の恐怖にぶるりと震える。きょろきょろしたくとも、竹本殿のいる前ではなかなかしにくい。ちょっとで良いから何処かを向いていてくれないだろうか、という吾輩の淡い願いは叶わず、竹本殿はじいっと座り込んでいる。
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