吾輩はニャーである。名前はまだ無い。

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うんうん、ととりふ殿は頷いた、のだろう。首もなければ肩もないつるんとした姿であるため多分としか分からぬが。 『新入りを買って嬉しかった、にしてはちょっと変だったねえ。それに涼香は基本博愛主義なのにアンタはひどくお気に入りみたいだし』 『そーだよ、こうくんずるいーっ!それまで涼のお話を聞くのはボクのお役目だったのにー』 ぴょんぴょん、飛び跳ねるのはわらびーなる何かを模したぬいぐるみの餅殿だ。出会って数日が経つがやはり吾輩にはわらび餅には見えぬ。不思議な御仁である。 『ちがうの、すーちゃんのいちばんはみりーなの』 『えええ、ボクも涼のいちばんのお気に入りがいいーっ!』 『あたしだって涼香に一番に可愛がってほしいさ』 お気に入り、という言葉に吾輩は尾をぴん、と立てた。吾輩の灰色の頭脳が言っている。────これは、間違いない。 『ふふふふ、涼香殿は吾輩に恋情を抱いておられるのだ』 途端に三方から白い目を向けられた。そんなわけない。声が綺麗に揃った。吾輩はあわてて反論した。 『こ、根拠はあるぞ。あの日涼香殿は吾輩のことをじっと見ていたのだ。しかも、吾輩を竹本殿から受け取ったあと此処に着くまでずっと胸に抱いておったのだ。これを恋情と言わずして何と言うのだ』 餅殿がことんと首を捻る。それだけ?うむ、と吾輩が頷けば同情するような目で肩を叩かれた。 『ボクもされた事あるよ』 『みりーも』 にゃんと!吾輩は崩れ落ちる。吾輩のあいでんてぃてぃはあっさり失われた。吾輩、これからどうしよう。 『……ねえ、こうくん。竹本殿って誰か聞いてもいいかい?』 『……ん、ああ、そのことか。あの日は────』 吾輩はあの日のことを掻い摘んで話した。とりふ殿はふむふむ、と多分相槌をうちながらその話を聞いた。そして、 『涼香はその人に恋をしてるのかもね』 衝撃的な一言を放った。しかし、それはどういうことなのだ、と吾輩は聞けなかった。なぜなら、 「だだいまー」 主殿のお帰りだ。
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