吾輩はニャーである。名前はまだ無い。

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『だめ。そのひと、みりーゆるさない』 静かな部屋の中で突然の声に吾輩はぎょっとしてしまった。怒りで膨れ上がったみりー殿は迫力満点だ。ただでさえ吾輩よりも大きな身体のくまである。それが肩をいからせてのっしのっし歩いてくれば、言うまでもあるまい。後ろからとりふ殿と餅殿がひょこひょこついてくる。その表情は物憂げで。涼香殿を心配しているのが吾輩だけではないことを知る。 『そのひと、すーちゃんにつらいおもいさせた。だからだーめ。みりー、そのひとけちょんけちょんにする』 『けちょんけちょんって……ミリーちゃんめっちゃ怖いよ……!?』 不穏な発言に餅殿が吾輩にしがみつく。しかし、みりー殿の気持ちが分からぬ訳では無い。涼香殿を傷つける者は誰であっても許さない。それが吾輩の気持ちではあるが……。 『ミリー、何を言い出すかと思えば。その竹本って人が悪いわけじゃないだろう。第一どうするって言うんだい、アタシらはその人の顔も知らないんだよ?』 『こーくん、しってる。こーくん、そのひとけちょんけちょんにしてきて』 ずいとみりー殿が吾輩に詰め寄る。……まじで怖いというやつだ。吾輩はすくみあがって何にも言えなかった。餅殿が申し訳なさそうに吾輩を見ていた。みりー殿は餅殿よりも大きい。いくら吾輩よりも大きいとは言っても餅殿でもみりー殿を止めるのは不可能であろう。手もないとりふ殿は言うまでもない。吾輩はみりー殿に担ぎ上げられる。 『つらい思い、って恋ってそういうもんだろうに……』 とりふ殿の呟きを最後に吾輩は涼香殿の鞄の中に投げ込まれたのだった。
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