ラブストーリーは突然に。

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加瀬純一郎は実に簡単に恋に落ちる男である。彼の頭の中には女の子に関することしか留まることができないらしく、それは「絶対領域」と言われ、手や足はもちろん、誰も口出しできない。一時期、無口な男はモテるという少女漫画を読んだとかで実践してみたらしいが、一時間目が終わるまでもたなかったのは有名な話である。 オレンジ色の髪の毛も目立って女の子にモテそうだから、という理由で高校入学と同時に染めたらしい。が、むしろ逆の意味で目立ってしまい入学早々目を付けられてしまい、あっという間にあっちからもこっちからも呼び出しをくらった。しかし、彼があまりにも純粋に女の子にモテたいと言い張るので、その曇りのない眼に人は感動すら覚え、それ以来すっかり放置されている。 そんな彼がまたもや恋に落ちた。 相手は音楽室のピアノの君。 クラスはもちろん、名前も顔もわからないと言う。 純一郎は校門から教室まで歩いてくる途中、会う人会う人に同じことを語りながら、 「見つけたら絶対に教えて!」 と最後に必ず付け加えた。 誰もが「ああ、また始まった」と思い、彼の恋の行方を、彼が恋した相手の幸せを祈った。これから延々、純一郎に追い回される日々が始まるのである。 しかし、今回はいつもと事情が違っていた。
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